学校

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 学校で朝、教室に入ろうとしている潤を見かけた。  手を振ってみると、彼は苦笑いを浮かべつつ手を振り返した。  昼休みに二組を覗きに行ったが、教室に彼の姿は見当たらなかった。  不安が現実にならないことを祈りつつ、憂鬱な五、六限を過ごし、チャイムと同時に二組の前に向かった。  丁度二組も帰りの会が終わったところで、生徒たちが続々と出てきた。 「みーきっ」声をかけてきたのは那波だった。「映画の調子はどう?」 「ぼちぼちかな」 「どうしたの? 誰かに用事?」  クラスから出てくる人を横目に見ていると、それに気が付いた那波が尋ねた。  美輝は少しの迷いの後、思い切って彼の名前を出した。 「宮瀬くん、いる?」  その名前に那波は目を丸くした。  それから声を潜めて話し始めた。 「久しぶりに来たと思ったら、美輝の仕業だったのね。どういう繋がりかは知らないけど、美輝は彼の怪しさに夢中なのね」  真実を言い当てられ、美輝はギクッとした。 「どうやら図星みたいね。まあ、美輝は一度気になりだしたら止まらないんだから、私は影ながら応援するほかないかな」 「流石、親友。よくわかったね」  那波は深くため息をついた。 「とにかく彼は敵多き人だから、うまく付き合わないと美輝も怖い目に遭うよ」  美輝は潤の境遇に改めて心を痛めた。何も悪いことをした証拠はないだろうに、どうして彼がこんな目に遭わなくてはいけないのだろうか。 「話を戻すけど、今、宮瀬君はどこにいるの?」 「彼はね……」  その時、美輝の後ろを勢いよく通過していく人物がいた。  その後を数人の男子生徒が追いかける。 「逃がすな、また犠牲者が出る! 捕まえろ!」  中心にいるのは界だった。  界の取り巻きの一人が一枚の写真を高く掲げ、大声で叫んでいる。 「宮瀬潤は殺人鬼だ! 証拠写真が出たぞ! あいつは人殺しだ!」  拡大された写真には、倒れた犬を見下ろす潤が写っていた。  美輝の背中を冷たいものが這う。 「潤っ……」  無意識のうちに、美輝は走り出していた。 「あっ、美輝! 待って!」  後ろから追いかけてくる那波を待つことも忘れ、美輝は無我夢中で彼らの後を追った。  階段を駆け下り、上履きのまま昇降口から飛び出す。  正門の手前に潤の背中があった。  その数メートル後ろを、界たちが追いかける。その様子はまさに獲物を狩る野獣だった。  周囲には異変を感じた生徒たちが集まっている。  潤が正門から外の道路へと駆け出たとき、一台のトラックが飛び出した。  危ない! ぶつかる!  信じられないことに、潤に衝突したはずのトラックは宙に浮いていた。  時間が止まったかのようだった。  何トンもあるであろうトラックが、何かに持ち上げられるようにして空高く舞っているのだ。  突如、再び動き出したそれは、界の前に落下した。  叫び声が上がり、周囲の生徒たちが一斉に散った。  地面をえぐるようにして墜落したトラックを目の前にして、界は無様に転がっていた。  あと一メートルずれていたらぺちゃんこだろう。  舞っていた煙が晴れて視界が開ける。  しかし現れた道路に、潤の姿はなかった。
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