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夜明け
サイレンの音が窓ごしに、くぐもって聞こえ、美輝は宿題から顔をあげた。
いつの間にか部屋は薄暗く、静まりかえっている。
勉強机を離れると、窓を開けて外を見た。
二階の自室からだと、家々の間に沈んでいく真っ赤な夕陽がよく見えた。
遠くの空は紫色に染まり、夜の訪れを告げていた。
美輝が窓から乗り出していると、前の通りを二台のパトカーが通り過ぎていった。
パトカーは、不安を誘う不気味なサイレンを残していく。
「まただ………」
ここ最近、町を走るパトカーが多い。
テレビでも悲しいニュースばかりが取り上げられ、世界が自分を暗闇へと引きずり込もうとしているかのようだ。
再び静けさに包まれた通りを、ただぼうっと眺めていると、向かいのコンクリート塀の上を黒猫がよぎった。
目で追っているとふと黒猫が動きを止めて、こちらに顔を向けた。薄暗い中に浮かび上がったその眼光に、鳥肌の立つ腕で窓を閉めた。
空が淡い朱色に染まり、部屋には夜の闇が訪れる。
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