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堤防を上り、那波と別れた。
潤は今日も家まで送ってくれるという。
二人、満月の下を歩いて行く。
ずっと、潤が能力者であるという前提でその原因について考えていた。
けれども、その根底こそが間違いだったのだ。
能力を持っていたのは美輝であり、自分自身の力を自覚していないのも美輝だった。
振り返ってみると、彼が能力を使ったように見えたのは、美輝が危険に対して強い気持ちを抱いていた時と重なる。
それになぜ、気が付けなかったのだろう。
「まさか、君の力だったとは」
風に河原の草がざわめいた。
「でも、ひとつ不思議に思うことがあるんだ」
「何?」
「君と出会う前にも一度だけ、能力は発動しているんだ」
「それっていつ?」
「犬に襲われたとき、初めてこの現象が起こった」
彼は美輝がその場にいたことを知らない。
「うーん……世の中って理屈じゃ説明できないこともあるんだよ」
「……そうだな」
会話が途切れ、耳に入るのは川の流れる音だけになった。
「ねえ潤」
「ん? どうした美輝?」
「あっ!」
美輝は目をまん丸にして潤の顔を覗き込んだ。
「初めて名前呼んでくれた! ちゃんと覚えてくれたんだね」
「も、もちろん」
美輝は彼の手を取って走り出した。
潤も驚きながら彼女に手を引かれ、走り出す。
月光に照らされた堤防を、二つの影が走って行く。
***
能力というものは、ふとした瞬間に覚醒する。
それは怒りが燃え上がる瞬間に。
それは底知れない悲しみの瞬間に。
それは苦痛や衝撃の瞬間に。
また、それは、恋が芽生えた瞬間に――。
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