月光に目覚める

2/2
前へ
/23ページ
次へ
 堤防を上り、那波と別れた。  潤は今日も家まで送ってくれるという。   二人、満月の下を歩いて行く。  ずっと、潤が能力者であるという前提でその原因について考えていた。  けれども、その根底こそが間違いだったのだ。  能力を持っていたのは美輝であり、自分自身の力を自覚していないのも美輝だった。  振り返ってみると、彼が能力を使ったように見えたのは、美輝が危険に対して強い気持ちを抱いていた時と重なる。  それになぜ、気が付けなかったのだろう。 「まさか、君の力だったとは」  風に河原の草がざわめいた。 「でも、ひとつ不思議に思うことがあるんだ」 「何?」 「君と出会う前にも一度だけ、能力は発動しているんだ」 「それっていつ?」 「犬に襲われたとき、初めてこの現象が起こった」  彼は美輝がその場にいたことを知らない。 「うーん……世の中って理屈じゃ説明できないこともあるんだよ」 「……そうだな」  会話が途切れ、耳に入るのは川の流れる音だけになった。 「ねえ潤」 「ん? どうした美輝?」 「あっ!」  美輝は目をまん丸にして潤の顔を覗き込んだ。 「初めて名前呼んでくれた! ちゃんと覚えてくれたんだね」 「も、もちろん」  美輝は彼の手を取って走り出した。  潤も驚きながら彼女に手を引かれ、走り出す。    月光に照らされた堤防を、二つの影が走って行く。  ***  能力というものは、ふとした瞬間に覚醒する。  それは怒りが燃え上がる瞬間に。  それは底知れない悲しみの瞬間に。  それは苦痛や衝撃の瞬間に。  また、それは、恋が芽生えた瞬間に――。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加