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翌朝、通学路にはいつもと違う雰囲気が漂っていた。
美輝は同じ町にある光城高校に通っており、学校までは家から二十分もかからなかった。
登校時に見かけるのは、大抵、美輝と同じ光城高校の生徒なのだが、その日はやけに警察が立っていた。
落ち着かない雰囲気の中、昨夜のことを思い出す。
この町で何か起きていたのだろうか……?
考え事をしながら歩いていると後ろから背中を叩かれる。
「……美輝ってば。雨川美輝さーん。大丈夫ですかー?」
隣のクラスの吉岡那波だった。その大きな目は、朝にもかかわらずぱっちりと開いていて、ふわふわの髪の毛を持つ小柄な彼女は、可愛い犬のようで美輝は少し癒される。
那波とは映画研究同好会で知り合い、一年からよく遊ぶ仲だ。
彼女の家は美輝の家と学校の間にあるため、たまに登校時に会う。
「ああ那波、おはよ。ちょっと考え事してた」
「考え事? あんなに声をかけてたのにウチに気が付かないなんて、何を考え込んでたの?」
「いや、なんか警察が多いなあと思って」
「そうだ。聞いた? 昨日、殺人事件があったんだって」
「……やっぱりそうなのね」
美輝の住む町では近頃、頻繁に殺人事件が起きていた。
事件現場は学校近辺が多く、犯人は未だに見つかっていない。
警察は捜査を続けているらしいが大きな手がかりは見つかっていないという。
「ウチらも気をつけないと。美輝なんかぼうっと考えごとしてるうちに、後ろから刺されちゃいそうで心配だなあ。気をつけてよ」
「悪かったって」
二人は黙って歩き始めた。
実はこの事件における被害者には、美輝たちの通う光城高校の生徒も含まれていた。
それも一人ではない。三人も殺害されているのだ。
このことが光城高校の生徒たちの気を沈めていた。
「あのさ……今度の被害者しってる?」
那波は顔を陰らせた。
「いや、知らない」
「またうちの高校だよ。美輝のクラスの子」
美輝は黙って歩を進めた。
犯人はうちの生徒を狙っているのだろうか。
いつもと同じ景色が、いつもより暗く感じた。
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