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ドキュメンタリー映画
「今日も来てない……」
あの日以来、潤は学校を休むようになった。
今日も那波を迎えに行く際、二組の教室を覗いたが彼の姿は見当たらなかった。
二組はまだ帰りの会の最中で、教壇で教師が話している。
美輝は教室前の廊下で壁に寄りかかりながら、あの時撮ったビデオのことを考えていた。
あの日、美輝が手にしていたビデオカメラは、事件を終始録画していた。
スローモーションで見ると、潤が犬に向かって手を突き出した後、犬の体は微動だにしなくなり、それから数秒の静止後に、一度大きく痙攣して落下した。
気になったことの一つとして、彼の手の出し方は、超能力を行使するために出したというより、飛び掛かる犬に対する恐怖から反射的に出しているように見て取れた。
何がともあれ、触れてもいない犬が、前触れなくしてその命を奪われたことに間違いない。
あれはどこからどう見ても超能力だ。
美輝は身震いして顔を上げた。
教室の前にもう一人生徒が来ていた。後ろ扉の窓から中を覗いている。
彼の横顔には見覚えがあった。
一年一学期末に映研を退会したミステリー好きの同志、佐賀賢也だ。
「佐賀君、久しぶり。誰か待ってるの?」
美輝が声をかけると、彼は元気のないそぶりでこちらへ顔を向けた。
「おお、雨川さんか。久しぶり。ちょっと用事があってね」
「そう――」
最近なんか良い映画あった? と質問しようとしたところで教室の扉が開き、中から生徒が流れ出してくる。
賢也はそのうちの一人を呼び止めた。
「あの、宮瀬潤ってこのクラスですよね?」
美輝は彼の口から潤の名が出たことに驚いた。
聞かれた男子生徒は顔を曇らせた。
「ああ、あいつはずっと学校に来てないよ」
「そうですか……ありがとうございます」
賢也は少し俯いて、足早に去っていった。
彼と賢也にどういう繋がりがあるのだろう。
美輝は廊下に一人取り残されて、賢也の寂しそうな背中が降りていった階段を見つめていた。
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