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あるとき母国に帰ると、不治の病が発見されたという話を耳にした。その病にかかると、身体が内側から腐りだし、徐々に動けなくなって、やがて灰になって消えるという。見知った人も何人かその病に罹患した。しかし、イサナの薬師としての腕をもってしても、誰一人救うことはできなかった。
疫病はじわりじわりと国内に広がっていった。
その最中、イサナはある有名な刀工から、一振りの刀を譲り受けた。
刀工は、悲しそうな瞳でこう言った。
「もうこの国は長くない。今広まっている質の悪い疫病で滅ぶだろう。これがこの世界の無秩序、神に見捨てられた結果だ。あぁ……造神イザベラは、せめて俺たちを安らかに眠らせてくれるだろうか」
「××さん、この刀は一体……?」
「俺の、最後の刀だ。もうじき俺もあの疫病にかかって灰になるだろう。これをあなたに託そう。どこか遠くの町で、誰かに売りつけてやってくれ。俺が生きた証明を。この世界へのせめてもの抗いを。俺の全ての魔力を注ぎ込んで打った刀だ。そこらの刀とはわけが違う、世界に一振りだけの代物だ。」
「そんな……いいんですか、私が持っていて」
「あぁ。身勝手だが、不死のあなたに、俺の希望を託させてくれ」
「……この刀の名は」
「名はない。だが、俺の名前は彫ってある。この上ないほどの魔力もな。だから……」
__きっと、魔剣と呼ぶのにふさわしい。
最後に不敵に笑った彼は、その数日後、疫病にかかってあっけなく亡くなった。
イサナはその魔剣を手に、再び旅に出た。彼の望み通り、どこか遠い町で、誰かに売り渡そうと。
しかし、この刀にふさわしいと思える人間が見つけられず、彼女は一度母国に戻ることにした。そして__
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