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それから数年、彼女が訪れたのは、母国から遥か西の大陸の、ファーガス王国だった。
当時の国王は、彼女の不死性に興味を持ち、直々に会談を申し出た。
イサナが旅先でこうやって王族と直接話をする機会は少なくなかった。だから彼女も慣れた態度でそれに応じた。
話題に上がったのは彼女の不死性とその出自、しかしそれ以上に国王が興味を示したのは、彼女が所持していた魔剣だった。
「その刀を、買い取らせてはもらえないだろうか」と王は言った。
理由を問うと、固い決意を灯した瞳でこう答えた。
「代々この王室で引き継いで、やがてこの刀が必要とされる時が来たら、然るべき者に受け渡したい。」
「必要とされる時、というのは」
「この世界の崩壊に、抗いたいのだ」
世界の崩壊に、抗う。
この世界は確かに神に見捨てられたことによって滅びの運命を辿っている。それに、抗いたいと彼は言った。この国を治める王が。
件の魔剣には、特異な性質があった。
あの刀工が込めた魔力が、年月を経る度に増幅し、今では一種の呪いのような膨大な力を得ていた。刀身は常に赤く光を帯び、禍々しい力が感じられる。イサナに刀を扱う技術はなく、実際に握ったことは無いが、この刀が使用者になんらかの影響を与える呪いを持ち得ているのではないかという想像は容易だった。だから、容易には他人に譲れないという思いもあった。しかし、イサナは、その王の眼差しに、かつてないほどの高揚を覚えた。
__この人になら、彼の生きた証明を託せる。そう、思ったのだ。
国王からは、イサナが今まで扱ったことのないほどの金額を提示された。イサナはさすがに気が引けて交渉を持ち掛けたが、王は頑としてそれを譲らなかった。「これが私の、その魔剣とあなたの永い生への最大の敬意なのだ」と。
魔剣はファーガス王室へ渡り、イサナは旅を再開した。
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