切り札と行商人、そして終末

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 商談を済ませ、城を出るころにはすっかり夕刻だった。  エドワードとの約束を思い出し、イサナは少しだけ早足で城門をくぐる。  待ち合わせの場所に佇むエドワードをすぐに見つけた。  イサナが声をかけるまでもなく、近付くだけでエドワードはこちらに視線を向けた。 「お待たせ」 「言うほど待ってない。気にするな」  そう言って彼は柔らかく微笑んだ。その笑顔に、幼い頃の面影が見える。やっぱり、あの子なんだな、と思って、なんだかおかしくなった。ずいぶんと逞しく成長したものだ。 「なんで笑ってるんだ?」 「なんでもないわ!さ、薬を調合してあげる。さっきの市場にいた錬金術師に道具を借りましょ」  イサナのつま先が軽やかに地面を蹴る。「おいそんなに急ぐなって!こっちは怪我人なんだぞ!」というエドワードの声。  __あぁ、なんて素敵な世界!  魔剣を携えた彼が、この世界のありとあらゆる崩壊に立ち向かう姿を想像する。  不老不死でもない。神様でもない。挙句、王室から追放されたただの青年。ちっぽけな、ただの人間。  エドワード・ファーガス。  彼のこの先の短い人生における活躍を思い描き、少女は笑う、笑う。  私は不老不死だけど、あなたのように世界の崩壊に立ち向かう力はない。だから、あなたが繋ぎ止める、この終末世界の未来を、私に見せて。  その手に握る魔剣の刀工と、それを運んだ私と、長年守り続けた王たちの想いを。希望を。  すべて、あなたに託そう。エドワード。
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