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ホールの照明が消えて、辺りが闇に包まれる。待ち侘びた瞬間がすぐそこに迫っているのだ。
ステージにスポットライトが当たると、ひとりのロックスターが光を浴びて立っていた。まるで、絶望の中で一筋の光明を見出だした時みたいに、胸が熱くなった。
割れんばかりの大喝采。耳をつんざく歓声。
私の大好きなロックミュージシャン『四条ルイ』のライブが今まさに始まるのである。
まだ高校生の私は、必死にバイト代を稼いでライブの費用に当てていた。
友達もいない。彼氏もいない。でも私にはルイがいる。
半年前の武道館でのライブが終わった瞬間から、今日この日の為に生きてきた。あの時は人生初の夜行バスに乗って、東京まで遠征した。彼に会いに行く為なら能動的になり、広い世界を見渡せた。
ルイの歌が、私をこの世に繋ぎ止めてくれている。
崇拝とか心酔とか、既存の概念に収まりきれない愛。この世に存在する言葉では形容できない愛がここにあった。
溢れ出す愛が抑えきれず、震える感情を声に乗せて何度も名前を叫んだ。私の声なんて届くはずがないのに。それでも、届いて欲しいと願ってしまう。
アリーナの中央部から、ささやかな祈りをこめて愛を放った。
「みんな、会いたかったよ」
ルイが呼びかけると、会場のそこここで会いたかったよーと声が飛ぶ。
「最高の夜にしようぜ!」
観客は歓声をあげて精一杯レスポンスした。
「ルイー!」
ステージが暗転する場面では、ファンがルイの名前を叫ぶ。
好きなんだ。みんな、彼のことが。だけど、私が誰よりもルイが好きだと胸を張って主張できる。
私が一番だという自負。
ライブはきっと、そんな人達の集まりなんだろう。
だからこそ、疎ましくもある。独占できない忌々しさ。これが、同族嫌悪という感情か。
時間は刻一刻と過ぎて行く。
ルイが一度ステージから捌けると、手拍子と共にアンコールがコールされた。
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