再開

1/1
前へ
/8ページ
次へ

再開

 久しぶりの制服に身を包み、有川は学校へと向かっていた。母の涙と父の叱責を思い出し、彼の口から苦笑が漏れる。 「有川君、ちょっとええかな」  後ろから声をかけられ、少し歩調を緩める。馴染みのある声だ。もし話しかけられなければ、自分から話そうとも思っていた相手だった。 「もちろんだよ、竹島(たけしま)竹島さん」  竹島――異世界で有川とともに、賢者として戦っていた少女。唯一同じ故郷を持つ仲として、向こうで仲良くなったクラスメイトだった。最後の戦いである魔王討伐にも同行していた一人だ。しばらくの無言が過ぎ、口火を切ったのは有川だった。 「一週間だなんて、びっくりしなかった?」 「そうやね。でも、おかげで助かったわ。どう言い訳するか悩んどったから」 自分もそうだったと話すと、小さく笑いが漏れる。二人だけの秘密。打ち合わせはしていなかったが、きっとそうなるだろうと考えていた。地球の、日本では接点のなかったお互いが、こんな風に笑いあう日が来るとは有川には考えられないことだった。クラスの隅にいる自分と、クラスの中心にいる竹島は、異世界に行って初めて会話したといっても過言ではなかったからだ。 「うちはちょいちょい学校休んどったからええけど、有川くんはいろいろ言われるんとちゃう?」  関西弁独特の訛り言葉も、一年も聞いていれば慣れたものだった。彼女の言葉で、有川は皆勤賞を逃したことに思い当たる。額をポンとうち悔しそうな顔をすると、竹島は楽しそうに笑った。 「じゃあ、うちはこれで。あ、学内ではあんま話さんとこうな」 竹島に小さく手を振って走り去り、有川はこれからのことを考える。一週間抜けた授業のこと。近くに控える試験のこと。そして、質問してくるだろう学友たちのこと。モヤモヤする思いを抱えながらも、有川は楽しそうに笑った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加