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「いいえ、わたくしが一番ですわ!」
「わ、私ですよっ!」
ある学園の中庭、お嬢様学校らしく趣深い東屋があるそこで、二人の少女がしきりに何かを言い争っていた。
チェックスカートが可愛らしい制服を着こなしている、ふわふわの栗毛を一つに高く纏めた少女は、その片手に淡いピンク色のスマートフォンを掲げる。
「この、私の見つけた子犬の可愛さといったら! そんじょそこらの猫じゃ、比べものにもならないでしょう! このふわっふわのくるりとした毛! 上目遣いのあざと可愛い瞳! ブラウンの愛らしいモフモフに、勝てるものはないでしょう! 天使ですよ……?!」
「駄犬ね。まるで貴女だわ」
「なにを……!」
それより、と少女と相対している、大人びた女性が鼻で笑う。
彼女は清楚で真っ直ぐな、美しい黒髪に相応しい、優雅な出で立ちをしている。
栗毛の天真爛漫な少女に対して、表情の移り変わりが少し乏しい彼女は、学園の女王様として性別関わらず敬愛されている。
生徒会書紀も努めていながら、生徒会長よりも人気のある彼女がこのような明け透けな態度を取るのは、この少女の前くらいだ。
そんな学園の女王様は、スッと懐から一枚の写真を取り出した。
「この子が世界一よ」
それに写っているのは、灰色の毛に白が少し交じった、可愛らしい子猫。
くぁぁあっ、と目を瞑って大きな欠伸をしている子猫は確かに愛らしく、また今どき無いような和風な、日がこれでもかと当たっている木製の縁側が、とても似合っていた。
それを精巧に、毛の一本一本まで写しているその写真は、その写真を撮った人の技術の集大成とも呼べる、美しい代物。
まさに猫好きにはたまらない、枕元に置いて愛でたいような欲求が湧いてくる写真である。
そんな写真を見た少女は、まぁ! と思わず口を綻ばせた。それを見て、勝った! と得意げに女王様が笑った瞬間、しかし! と少女は立ち上がる。
「うちの子が一番ですね……!」
「なっ……この後に及んでそんな戯言を抜かすんですの?!」
これは、仁義なき戦い。
絶対に負けられぬ、平行線の物語である。
そんな彼女達は、自分たちを尻目に、「ああ、今日もお美しい二人だわ……」「姫と女王。さぞ素晴らしいことを話しているに違いない……!」「あっ、見て。王子も来たわ。まぁ、何て絵になるんでしょう」などと、遠巻きに同級生が囁きあっているのをしらない。
そして、“王子”と呼ばれる犬派の男子学生が来たことで形勢が押され気味な女王様が唸っているのも、また、女王フィルターによって級友の者たちによって、女神達が見つめ合っている一枚の絵画へと昇華されるのだった。
終
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