三 監視

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三 監視

 PVがロンド家のエアーポートから垂直上昇して、水平飛行に移った。 「オリバーはハリーと知り合いか?」  コクピットのマリーはカールに訊いた。 「オリバーはハリー・スピッツと同じ地区の出身だ。二人は顔見知りだった・・・・」  故ハリー・スピッツの自宅はアシュロン南部の郊外だ。オリバー・ミン少尉もこの地区の出身だとカールは言った。  マリーはそう言うカールから、これも何かの因縁だろう思っているカールの精神思考をを感じた。カールらしからぬ考えだ。カールは何を考えているのだろう・・・。 「カールは、今回の事件とハリー殺害が関係していると思うか?」 「関係しているのはハリー殺害より、その原因になったクラッシュの件だ。  マコーレ・ジョナサンとミルコ・ロドノエフによる今回のクラッシュの件は、テレス帝国軍の残党レプリカンが関与していた。  医師のロック・コンロンはテレス帝国壊滅前、アシュロンキャニオン鉱山労働者にクラッシュを処方した容疑で逮捕状が出たが、当時のコンバット(テレス帝国軍警察重武装戦闘員)から逃げたままだ。  オリバーは、今回のバリー・ロンドとミッシェル・ロンド夫妻の殺害に、テレス帝国軍の残党が関与していると感じているのだろう・・・」 「カールはどう思う?」 「クラッシュの件も、ウィルス・カプコンドリアの件も、テレス帝国軍の残党レプリカンが関与していた。  ロンド夫妻の殺害にも、帝国軍の残党レプリカンが関与していると思うが、夫妻を殺害する動機が何か、思い当らない・・・」  カールはそう言って口を閉じた。マリーはカールから、思考を何も感じなくなった。 「クラリス。ロック・クリニックを監視してくれ」 「了解した・・・」  コクピットに、遥か上空からアシュロン市街地を見おろす3D映像が現れた。すぐさま、3D映像が拡大して、白い建物の屋上になった。ロック・クリニックだ。  一〇〇〇時過ぎ。  PVはテレス連邦共和国軍警察フォースバレーキャンプに戻った。  マリーたちより先に運ばれたバリー・ロンドとミッシェル・ロンド夫妻の解剖スキャンは続いていた。夫妻の葬儀は一三〇〇時過ぎだ。 「ポール。夫妻は解剖スキャン後、一三〇〇時に葬儀する。列席者は五人だ。手続きしてくれ。参列者が来たら、故人のクリスタル化を説明してくれ」  オフィスの執務コントロールポッドから、マリーは、3D映像コンバット通信回線を通じて、事務オフィスの執務室コントロールポッドにいるポール・カッター主席事務官に指示した。 「了解した」  マリーの指示に、ポール・カッター主席事務官が答えて、その場から事務官たちに指示している。主席事務官の指示を確認して、マリーは3D映像コンバット通信回線を閉じた。  執務コントロールポッドからカールが訊く。 「クラリス。解剖スキンで異変が出たか?」 「今のところ、異変は無いわ」  クラリスはマリーのコントロールポッドの横の、コントロールポッドにいる。クラリス自身がアバターと気づかれないように対処している。  マリーがクラリスに指示する。 「スキャン結果が出るまで、ロック・クリニックの監視映像を見せてくれ」 「了解」  クラリスがコントロールポッドのコンソールを操作した。  クラリスはエネルギーフィールドで構成されたアバターだ。コントロールポッドを操作しなくても、AIによるあらゆる操作が可能だ。そして、アバターのクラリスは、ビームパルス攻撃にも銃弾攻撃にも消失することはなく、バトルアーマーに装備された防御エネルギーフィールド同様に、マリーやカールを守る盾になる。  クラリスによると、緊急でない限り、バーチャルコンソールやコントロールポッドを操作して、ヒューマ並みの経験をしたいとの感情がある。ビールを味わうのもその一つだ。  オフィスの空間に、上空から見おろすアシュロン市街地、アシュロン〇〇一、〇九五(南北一番街東西九十五番街)の3D映像が現れた。情報収集衛星防衛システムからの4D映像探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)による3D映像だ。  すぐさま3D映像が拡大して白い建物の屋上になり、内部3D映像になった。ロック・クリニックだ。 「内部に誰もいない。地下にアシュロン市街一区画が破壊する大量の爆発物がしかけてあるわ。ミルコ・ロドノエフの家と同様に、3D映像探査が可能よ。今度もセンサーが無い。  ミルコ・ロドノエフの家はセンサーの監視ビームが無かったのに、探査したら爆発した。  ここも、4D映像探査や有機質専用3D映像探査をすれば爆発するわ。  可能なのは無機質専用の4D映像探査(素粒子信号時空間転移伝播探査)による3D映像探査だけよ・・・」  クラリスの説明に、カールが言う。 「ヒューマを除いた4D映像探査による3D映像(無機質専用3D映像探査)をしてくれ・・・」  ロック・クリニックにクラッシュが隠されていないだろうか。ロック・コンロンがそんな手抜かりをするはずがない。しかし、当時、テレス帝国当時、医師を逮捕しようとしたコンバット(テレス帝国軍警察重武装戦闘員)と市街戦をしてまで逃亡したロック・コンロンが、どうして以前と同じ地区でロック・クリニックを開いているのだろう・・・。カールは疑問だった。 「地下の薬品倉庫に大量のクラッシュ発見!」  キャンプのオフィスの空間に現れているロック・クリニックの4D映像探査による3D映像が、地下一階にある薬品倉庫の内部3D映像に変った。 「ここは定温管理されてるわ。壁は厚く、外部攻撃に耐えうる構造よ。居住施設があり、核シェルターとしても機能する。爆発の危険性があるため、波動残渣は探査できない」  クラリスが薬品倉庫の3D映像解析結果を説明した。  マリーは、ロック・コンロン逮捕のためにロック・クリニック入った六年前を思いだした。 ガイア歴、二八一〇年、八月。二十一時過ぎ。 「ロック・コンロン。麻薬売買で逮捕する」  バトルスーツとバトルアーマーに身を包んだマリーは、アーマーのAIユリアを通じ、3D映像コンバット通信回線でロック・コンロンに伝え、クリニックのドアを開けた。  マリーは夕刻クリニックに来ていたため安心していた。クリニックで危険なのは医療器具くらいで武器や兵器はないはずだ。  ロック・クリニック入ったマリーは警戒しながら進み、待合室から診察室のドアを開けようとした瞬間、衝撃波と炎がマリーを襲った。マリーは凄まじい勢いでクリニックのドアから吹き飛び、路上へ転がり出た。 「太尉!ゴールド太尉!起きろ!マリー!」  カールがコンバット通信回線で叫んだ 「酸素ボンベだ。ガスに点火しやがった!」  起きあがったマリーはクリニックを見た。  クリニック内部からロドニュウム高速弾とビームパルスがコンバットを襲っている。路上のPVは水素燃料電池を銃撃され、数メートル上空へ吹き飛び、路上に落下した。  いったいこれだけの武器をどこに隠し持っていた?そう考えたが、武器探査していない自分に苦笑しながら、マリー立ちあがった。  あの時はガス爆発だったから、バトルアーマーの防御エネルギーフィールドで身体をシールド保護されていた私は無傷だった。今度はそうはゆかない。クリニックごと爆破されれば、被害は周囲に及ぶ。我々の目的は、ロック・コンロンの逮捕とクラッシュの撲滅だ。マリーはクラリスに訊いた。 「我々がクリニックに入れば、クリニックごと吹き飛ぶか?」 「一区画が壊滅するわ」  クラリスはおちついてそう答えた。
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