1354人が本棚に入れています
本棚に追加
4. どうして?なんで?
守岡くんに告白されて、返事ができなかった。
彼氏がいる、って言っても諦めない、彼…。
もっと突っぱねなきゃ、冷たくしなきゃ。そう思っているのに…彼の愚直さに、負けてしまいそう。
「僕、そんなに女性とつき合ったことないから、惚れさせるっていってもどうしたらいいかわかんないすけど…でも、契約切れるまでの後2ヶ月、努力したいんです」
「エリカさんのこともっと知りたいし、僕のことも知って欲しいです」
「会社の帰りにちょっと会って話したりとか、LINEしたりとか…そういうの、させてほしいです。僕のこと好きにならなくていいから…好きでいさせてください」
傷つくことを厭わずに進むタイプ。強気なくせに気持ちは押し付けない。
こっちに最終判断を任せる余裕ももたせてくれる。勢いだけじゃない…若さだけじゃ、ない。こんな、素直で良い子…もしも彼が別の人を好きだったら、恋愛相談に乗ったり、応援してあげられたのに。
「連絡先、交換してもらえませんか?」
「…私からは連絡しないよ?」
「それでいいです。教えてください」
電話番号をメモして、渡した。
「LINEもいいですか?」と言われ、QRコードを出した時に、八田くんからメッセージが入った。
開けてみると、にこにこ満面笑顔の八田くんの自撮り写真だった。可愛い笑顔に守岡くんの存在を一瞬忘れた。
どこか、居酒屋のカウンターなのか、後ろにお客さんたちらしい人たちが映ってる…安心した。
「彼氏さんですか?」
「あ、うん。ちょっと返事するね?」
綻んだ顔のまま、画面をフリップしようとしたらすぐにまたメッセージが入ってきた。
「一緒に飲んでる先輩!」のコメントと共に、送られてきた画像。
何、これ…何かの間違いじゃないかと目を疑い、何度も確認する。
八田くんと肩を組んで、楽しそうに笑っている男性。彫りの深い顔立ち…日本人離れしたその顔は、外国の血が入ってる、と言われたらそのまま信じてしまいそうだった。
すっと伸びた綺麗な鼻筋に、窪んだ眼窩。笑うと八の字になる眉毛は、あの頃のまま。
ううん、彼のわけがない。きっと他人の空似…そう思いたいのに、こんなに特徴的な顔の人が他にもいる訳がない、とも思ってしまう。
ぎゅっと、胸が苦しくなる。切なくて苦しくて…絶望の中、毎日泣くことしかできなかったあの頃が蘇る。
「エリカさん?どうしました?」
守岡くんが心配げに聞いてくれるけれども、顔が上げられない…目が、画像に釘付けだ。
八田くんと一緒に映っていたのは、私の元夫。
数年前に行方知らずになったまま、離婚届を送りつけてきた…寺田健一郎だった。
最初のコメントを投稿しよう!