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今朝の、八田くんとのいちゃいちゃを思い出すと思わず頬が緩んでしまう。
コーヒーを入れてデスクに戻り、ノーパソを立ち上げてメールチェックをしながらも「可愛かったなぁ」と思い出してはにやつくのが止められない。
ほんと、なんであんな可愛い年下の男の子が私の事を好きなのかがわからない。
私は彼より五歳上で、バツイチ。
もう恋愛なんていらない、結婚もいい……そう思って、今の会社で頑張ってきた。
エリカさん…そう呼びかけながら微笑み、私の頬に触れる、彼の繊細で細くて長い、芸術家をイメージさせる美しい指。
あの美しい指が、私の身体に触れて、まさぐって、熱いところをもてあそんで……今朝されたあんなことやこんなことを、思い出すだけで顔が熱くなる。
「あの……エリカさん?」
野太い声が、後ろから怪訝そうに私の名を呼ぶ。
「は、はい!??」
正気に返って振り向けば、二週間前に入ったばかりのバイト君だった。
「さっきから呼んでるんすけど」
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「営業さんから来た契約書類、どう処理すればいいっすか」
今どきの若者っぽい話し方。ま、八田くんもこんな話し方、よくするな。
「それはね」
仕事を教えながら、バイト君を観察する。
背は八田くんよりも少し低い。声、この子のほうが男っぽくて低く、よく響く声。全体的にいかつい印象で、もしも街中で見かけたら避けてしまうタイプ。
「わかりました。じゃ、課長に承認もらってアップですね」
「うん、お願い」
仕事は教え終わったのに、バイト君はまだ用があるような感じでそこに立っていた。
「まだわからないところあったかな?」
「いえ」
彼はそういうとちょっと俯いた。
「エリカさん、僕の名前、言えます?」
……ヤバい。
年のせいか、最近人の名前が覚えられないんだよね。
「えっと…」
こっそり首から下がっているIDをチラ見する。
「守岡くん…だっけ?」
「今、ID見ましたよね」
「ご、ごめんね、名前覚えるの苦手で…守岡勇気くんね、覚えたよ」
「いいっすよ、別に」
彼はムッとした顔のまま…きびすを返した。
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あちゃ…機嫌悪くしちゃったかな。
でも、名前覚えてないくらいで別に怒る事ないよね?
それに、仕事に関してはSlackに上がってるマニュアルを見れば分かるはずなのに…。
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