1. 年下の彼

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 怒濤のように仕事をこなして、あっという間に金曜日。  今週も忙しかったな、と思いながら、泊まりにくる八田くんと何を食べようか、映画は何を見ようか…そんなことを考えながら帰り支度をしていたら、紺野課長に声かけられた。 「三木さん、歓迎会行くよね?」 「歓迎会って…誰のですか?」 「守岡のだよ」  守岡くん…あの、いかつい感じのバイトの子か。そういえばアレ以来話してないな。 「私、欠席で出したはずですけど…」  毎週金曜日は八田くんが泊まりにくる。平日なかなか会えないから、週末は全部彼の為に取っておきたい。会社絡みの飲み会は、できることなら2回に1回はお断りしたい、と思ってる。 「あれ?出席になってたけど?」  課長は歓迎会の出欠表が出ている画面をこちらに向けた。本当だ、出席になってる…もしかして間違えて出席にした? 「用があるなら、ちょっとだけ顔出してくれればいいからさ」  八田くんがうちにくるの、20時過ぎだから、1時間くらいならなんとかなる、と頭の中で逆算する。 「じゃあ、1時間くらいしかいられませんけどそれで良ければ」 「うん、いいよいいよ。歓迎会はほら、やっぱりみんなが顔を揃えた方がいいから」  紺野課長には日頃からお世話になってるし、直で声かけられたら断りづらい。私は八田くんに「ちょっと会社の飲み会に顔出してから帰るね」と連絡を入れた。最後にはもちろん可愛目のスタンプを押して。 「かんぱーい!!!」  ビールのジョッキがぶつかる音と、ザワザワした雰囲気、話し声。あ〜苦手…と思いつつ、私はウーロン茶を一口飲んだ。 「今日の飲み会、盛況やね〜」 「あ、山野くん」  話しかけてきたのは、東京にきてもう5年になるのに、未だ関西弁が抜け切らない山野くんだ。私とほぼ同時期に転職でこの会社に入った同期で仲が良い。 「今日の主役な、守岡めっさモテるらしいで?」 「そうなの?だから今日は女子率高いのか」 「ここにえ〜男がおるのになぁ〜」 「え…どこどこ?」 「こらぁ!目の前や!!ここにおるやろ!!」  突っ込まれて大笑いし、気持ちがほぐれてきた。  私たちは、同時期転職と言う事でちょっとした連帯感を持っている。厳しい仕事を励まし合って乗り越えてこれたのは、彼の、笑いを取りつつも真摯で熱いキャラに寄るところ。  たわいない近況報告が一通り終わると、山野くんは女子に囲まれていた守岡くんを呼んだ。 「守岡!ちょっとこっちこい!」 「はい!」  体育会系のノリの如く、すくっと起立してやってきた彼…やっぱり雰囲気がいかつい。ちょと苦手…かも。 「エリカちゃん、これ、オレのグループに入ったバイトの守岡勇気。今日の主役や。守岡、こちらは三木エリカさん。オレと同じ転職組やねん。頼りになる姐さんやから甘えたれや」 「よろしくお願いします!」 「…よろしくね」  話すの、初めてじゃないけどなんとなく「初めまして」の感じでの挨拶になってしまった。  守岡くんは、真っ直ぐな瞳で私を見る。あまりにも真っ直ぐすぎて、心の中、奥底まで見抜かれそうでドキドキしてしまう。 「守岡、なーにエリカちゃんに見惚れてんのや!」 「すみません、つい」 「エリカちゃん美人さんやろ?手ぇ出したらあかんで?」 「ちょっと山野くん、やめなよ」  守岡くんはすっと目を逸らしたのでほっとした。ちらり、と見ると山野くんにからかわれて笑ってる。へぇ…笑顔、案外可愛い。いかつい印象なのに垂れ目気味なんだ、と気づく。  ふと守岡くんがこちらを見た。バチッと音がしたんじゃないかと思うくらい、目が合った時の衝撃があった。  反射的に目を逸らしたけど、なんなの…?ドキドキが止まらなくて、心の中で八田くんに謝った。  ごめんね、八田くん。八田くん以外の人にドキドキしてしまうなんて…。
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