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「守岡は年いくつやったっけ?」
「22です」
若い…相当若い。若すぎる。約10歳の差なんて、ひと世代違うもんね…。
守岡くんは私に向き直って聞いてきた。
「エリカさんはおいくつなんですか?」
「あほぉ!女性に年齢聞くもんやないやろ!」
山野くんが突っ込み入れてくれたけど、敢えてここは年齢言っとく。
「32だよ」
「あ、そうなんすか」
守岡くんは拍子抜けするくらいあっさりとしていて、ビールのジョッキをぐいっと飲み干した。
「エリカちゃんは若いからそんなに見えんやろ?20代で通るなぁ?」
山野くんがフォローする。けど…見た目若く見えるのって、そんな重要じゃないんだよなぁ…。
「年相当に見える方がいいんじゃないすか?僕は年齢相応の人、好きですね」
そういうと、私を見て少しだけ、にやっと笑った。うわ…確信犯だ。
「ははは、でもまぁ、エリカちゃんがお前みたいな若造相手にせんやろ」
山野くんがさりげなく牽制してくれる。私がバツイチなことも、彼氏がいることも知ってる。山野くんは信頼できる同期だもの。
「そういうシチュエーションの方が燃えますね」
守岡くんの目が光る。
2人のやりとりを聞きながら、あり得ない、と思ってた。私、ちゃんと彼氏いますけど?三十路独身女は恋人いなさそうだから、年上好きです的なところ見せとけば、しなだれかかってくる、とでも思ってる?
ふと時計を見たらもうじき8時半になるところだった。早く帰らないと、八田くんを待たせることになる。
「ちょっと、先に帰るから!」
山野くんに耳打ちし、慌てて上着とバッグを取り、会費を渡す。
「エリカちゃん、またな!」
「気をつけて帰れよ!」
端の席から紺野課長が手を振ってくれるのが見えた。全力で手を振り返すと、私は猛ダッシュで地下鉄の駅に急いだ。
お店を出てしばらく小走りし、少し息切れして普通の速さで歩く。と、後ろから呼び止められた。
「エリカさん!!」
振り返る…守岡くん、走ってくる。
めんどくさいことになりそうな予感しかしなくて、手で牽制して声をかける。
「急いでるから、また来週ね!お疲れ様!」
そう言って逃げるように地下鉄への階段を駆け下りようとしたら、ぐっと腕を掴まれ引っ張られた。
「いたっ…」
「はぁっ…はぁっ…ご、ごめんなさい、忘れ物、です」
息を切らしながら渡されたのは、私のスカーフだった。
これのためにわざわざ、走ってきたの?
「来週でも良かったのに…ありがと」
つい素っ気なく返事してしまう。
「いえ…お疲れさまでした」
「…うん、お疲れ」
守岡くんはすぐに踵を返して、お店に戻って行った。良かった…しつこくされなくて。
地下鉄の改札を通ってから、スカーフをバッグに入れようとして気がついた。
スカーフの中に小さく折り畳まれた、メモ。開いてみると、そこには、丁寧な字で 「連絡ください、守岡」。そして携帯の電話番号とメールアドレス…。
10歳も下の男の子に…気に入られた?
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