1. 年下の彼

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 家に帰ってもなんとなく気持ちが重たかった。  若い男の子に気に入られるの、パートナーがいなければ別になんとも思わない。あしらえばいいだけの話だから。  ただ、今は八田くんがいるし、相手がバイトとは言え同じ会社の子、っていうのはあしらい方によっては面倒くさくもなるし…。  スカーフの中に連絡先を書いたメモを紛れ込ませる、なんて今時の子にしてはやり方が古風というか何というか。  渡された連絡先は、コンビニのゴミ箱に破って捨てた。そうされても仕方がないよね?  正攻法で連絡先を聞いてこない事にもちょっと腹が立った。  自分から連絡するくらいの強引さを見せてくれれば「彼氏いるから」って断る事もできるのに。  好意を見せつつもこちらの出方を待ってる感じが「ずるい」んだよなぁ…なんてことをぼんやりと考えながら、手に持ったビールに口をつける。  八田くんは今、シャワー中。私は先にシャワーを浴びて部屋着に着替えて彼が出てくるのを待っている。 「エリカさーん!ドライヤー貸して?」  八田くんが腰にタオルを巻いて、髪を別のタオルで拭きながら出てきた。はっと我に返り、仔犬のようにニコニコしてる八田くんと目が合う。 「あ!いーもん飲んでる!一口ちょうだい!!」  返事をする前に私の手からビールを奪い取り、ごくっ、ごくっと美味しそうに飲む。喉仏から胸筋、そして腹筋…、相変わらずいい筋肉してる。  守岡くんのことをしばし忘れ、目の前にあるシックスパックにほれぼれとする。美しい筋肉に触れたくて、つい手が伸びる。 「ちょ、エリカさん?くすぐったいよ?」  八田くんは、筋肉をなぞる私の指から逃げようと身をよじる。 「マジやめて?くすぐったいから」  そう言われてもやめるかなんか一切ない。聞かぬふりでくすぐり続けると、笑いを押し殺しながら私の手を両手で掴み、押さえこんでのしかかる。 「やめて、って言ったよ?」  少し潤んだ瞳が私の目をまっすぐ見る。反則だよ、この素直さ。 「ごめんね」  手を押さえ込まれたまま、上目遣いで彼を見る。艶っぽい唇と、まだ濡れている髪から滴る滴。私の手を押さえる彼の手に、ぐっと力がこもる。 「…痛いよ?」  そう言い終わらないうちに口を塞がれる…。柔らかい唇が私の唇をむさぼり、軽く噛んで、舌を絡ませて…。  浅く、深く味わいながら、お互いの唾液も混じり合う。吐息が荒くなり、しばらくの間キスを楽しむ…。  八田くんの背中に手を回し、マッサージするように優しく撫でて。八田くんは私の肩と腰に手を回して、強く引き寄せる。 「ずりぃよ、エリカさん…」  八田くんは唇を離すと、ふっと甘い吐息をついて私をぎゅっと抱きしめた。 湿っぽい髪が頬に触れる。上気しているから、クールダウンにちょうどいい。 「誘ってんでしょ?それ」 「違うよ…くすぐっただけ」 「違くない」  頬を包む両手。指が細くて長くて、芸術家っぽい。 「ん?」と目を合わせると、また唇を重ね合わせて、情熱的に食む。 「ベッド、行く?」  耳元で囁く声。低くて甘い。声に出さずに頷くと、彼は私を抱き上げた。
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