1349人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
新しい週が始まった。今週も忙しい…月曜日の朝からバタバタする。
この週末、金曜日の夜から今朝までずっと八田くんと一緒に過ごして、すごく満たされた。
ベッドでいちゃいちゃして、朝ご飯食べて、シャワーしてまたいちゃいちゃして、映画見ながらいちゃいちゃして…。
それの繰り返しで、愛も性欲ももうお腹いっぱい、っていうくらいチャージされた。
今まで八田くんなしでどう週末を過ごしていたのか不思議になるくらい、彼は私を満たして元気にしてくれる。
月曜日、火曜日、水曜日…会社員の日々はあっという間に過ぎる。
仕事を捌き、同僚とランチし、眠たくなる午後を濃いめのコーヒーで乗り越える。
会議、打ち合わせ、企画書提出、定例会と進捗…やることは山のようにある。
だから、守岡くんのことは存在自体忘れてしまっていた。時々ふっと気が抜けたときに視線を感じ、振り返ると守岡くんがいた、ということは何回かあった。
電話がかかってこないから、何か言いたいのかな…。
でも、番号が書かれたメモは捨ててしまったし、元々、欲しいと言って貰ったわけではないから電話する筋合いもないし…気にすること、ないか。
そう思って彼のことを放置していた。
「ふぅ…」
木曜日、午後4時。
そろそろ一週間の疲れが出てくる頃。明日の夜は八田くんがうちに来る。週末はデート、どうしようかな?
春の洋服が欲しいから買い物つきあってもらおうか。それともちょっと早いけど夏休みの計画を立てて…。
あれこれ考えながらプレゼン資料を探すために資料室に入る。
必要な資料を揃え、デスクに戻ろうと資料室のドアを開けると、突然勢いよくドアが引っ張られた。
「きゃ!」
驚いて抱えていた資料が数冊、腕から落ちる。
「痛っ…」
分厚い資料の角が、もろに甲に当たった。
「すみません、大丈夫ですか?」
床に落ちた資料を慌てて拾ってくれる、人影…守岡、くん。
「大丈夫、ありがとう」
なんとなく気まずい。拾ってもらった資料を受け取り、すぐに資料室を後にしようとしたら、ぐっと腕を掴まれた。
「え…?何するの?」
「話、したいんすけど。ちょっといいすか?今」
守岡くんは私の腕を掴んだまま後ろ手に資料室のドアを閉めると、鍵を閉めた。なんで、鍵…。
向き直って、気にしてない風を装う。睨むように守岡くんを見る。
資料室は地下一階。みんながいるオフィスフロアと離れてる…。
「何?用って」
「いや、その…」
何か言いたげな顔。でも言葉が見つからない、的な雰囲気。
メモのこと聞かれるのかな…もし聞かれたら、どうやってごまかそう?素直に「捨てた」って言っていいものか…。
「それ、企画書用の資料ですか?」
ようやく口を開いた守岡くんは、私の資料を指差して言った。
「そうだけど」
「重そうだから僕、持っていきます」
そう言って分厚い資料をひょい、と持たれた。
「いいよ、守岡くん資料室に用があったんでしょ?」
「いえ、女性が目の前で重いもの持ってるの、やだし」
守岡くんは資料を軽々と片手で持つと、資料室の鍵を開け、ドアを押さえてくれた。
「どうぞ」
「あ、ありがと」
彼の気が変わらないうちに、何か言われないうちに。私はそそくさと外に出た。守岡くんは無言で、後ろから付いてくる。
「話ってなんだったの?
「いえ、大したことじゃないんで」
エレベーターに乗り込み、地下一階から三階まで。
エレベーターのボタンを押す間も特に何も喋らない守岡くん…微妙な、距離感。
「そのスカーフ」
守岡くんが、やっと口を開いた。あ…先週の飲み会でしてたやつ。
「すごく似合ってますね」
「あ、ありがとう」
そう返事をしたときに三階についた。
「資料ありがと。助かったわ」
そう言って、守岡くんから資料を受け取ろうとしたとき、手に…触れられた。
「え?」
思わず手を引っ込める。顔を上げると、無防備に守岡くんの目と合った。
「そのスカーフ、大丈夫でしたか?」
「大丈夫って…なんで?特に破けてたりとかなかったけど?」
私はとぼけることにした。
あんな風に入れられてたメモ、途中で落とすことだって充分あり得るから。気づかなかったってことにすればいい。
私は大人の余裕、笑顔で振り返り一言釘を刺す。
「資料室はいつ誰が使ってもいいように、鍵はかけないでね」
「あ、はい…すみませんでした」
エレベーターのドアが閉まり、守岡くんはそのまま下に降りていった。
この前の飲み会で見せた強気な態度とは裏腹…。
シャイなのかな…守岡くん。
最初のコメントを投稿しよう!