1. 年下の彼

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1. 年下の彼

 朝の、柔らかい日差しがカーテンの隙間から入ってくる。薄く目を開けると、壁の一部に光が当たって、そこだけ浮き上がっているように見えた。  綺麗だな、と思いながら目を閉じて、隣から聞こえてくる規則正しい寝息に耳を澄ませる。すーっ、すーっと聞こえるその寝息を聞いていると、また心地良いまどろみの中に引きずり込まれそうだった。  首を傾げ、横に寝ている彼を見る。付き合い始めてやっと、四ヶ月。週末にうちに泊まるようになって、一ヶ月……。  爆睡してる様子が可愛くて、思わず口角が上がる。そっと腕を伸ばして柔らかな茶色い髪に触れた。 「……ぅん……、エリカさん……?」  寝ぼけながら手を伸ばし、髪に触れた私の手を優しく掴む、年下の彼。 「もう起きたの?」  眠そうに、あくび交じりに聞いてくる。半開きの唇も、面白いほどの寝癖がついた爆毛も……全部、好き。 「八田くんの寝顔、鑑賞してた」  そう言いながら彼の耳、顎……と指を移動させ、首筋をくすぐる。 「ちょ、くすぐったい」  そう言われてもやめる気にはならず触れ続けると、いつの間にか八田くんも私の体を押さえ込んでくすぐり始める。 「ちょっとやめてよ」  笑いながら彼を押し返そうとすると、目が合った。欲情した男の目……。  さっきまでの眠そうな彼はどこへやら。首に、瞼に、頰に、鎖骨にと、柔らかな唇が触れる。  体に優しく触れるキスが心地良くてくすぐったくて、体をよじって逃げようとしたら強く押さえ込まれた。  感じる重みと筋肉質な体。滑らかにしなやかに、全身に満遍なくついた筋肉は、私に女に生まれて良かった、と思わせるほどに男性的だ。  唇が耳に触れ、歯が立てられる。甘噛みされるの、好き……。 「ね、足りなかった?」 「んっ……、何が?」  気持ち良さに耐えながら、可愛い外見とは裏腹に少し低めの、男らしい声の囁きに答える。 「オレより早起きだからさ」 「だから?」  八田くんが何を言いたいのか皆目検討がつかない。 「昨日の夜、結構激しくしたつもりなんですけどね」 「だから、何が」 「ほんっとにわかんないの?」  わざとらしくプッと膨らませた頰が可愛い。年下の男って、なんでこんなにあざとくて可愛いんだろう。 「エリカさんは貪欲だよねぇ…」  八田くんはふぅ、とため息をつき、下を向いた。それが演技で、本当は笑いをこらえているとわかっていても、慌ててしまうのは惚れた弱み。 「そんなことないよ、満足してるよ」 「本当に満足してたら起きらんないくらい爆睡じゃね?」  イマドキっぽい言葉遣い。やんちゃさがにじみ出ている彼は、実はエリート。 「八田くんといると、もっとして欲しくなっちゃうんだよね」  こちらは年の功。ほんの少しの演技を交え、上目遣いで見上げながら言う。  そうすると嬉しそうに口角を上げて「オレ、エリカさんのために頑張ります!!」と、優しく激しく、時には焦らすように緩急つけて、私を愛し始める。  男って単純。  その気持ちを言葉に出さず吐息に変えて、八田くんの腕の中で私は焦れていった。
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