第二章  まずはそこから

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「あのさ六衛門、聞きにくいことを敢えて聞いていい?」  大体想像はつくけれど、オレは確かめたいと思っていた。 「……先ほどの番屋とのやりとりか?」  六衛門はすぐに察した。…というか、やはり彼が一番聞いて欲しくない部分だからだろうな。ちなみに番屋というのは、オレが彼に説明するために仮称した交番のことだ。役割は今と昔ではかなり違うだろうけれど。 「…うん。柄の部分しかなかったのは、生活が苦しかった…とか?」  オレは時代小説の受け売り程度しか知識はない。戦国時代に比べ、平和になってからは武士は生活に困窮してやむを得ず、大切な刀を質に入れ、お金を工面していたとかしないとか。 「……相すまんが、そのことには…」  図星だったらしい。彼のプライドを傷つけるつもりもない。 「オレも似たようなものなんだ。今、働き口を探して貯めた金を切り崩してるかんじ。でもここの家賃とか払っていかなきゃなんないから、つなぎでバイト…いや、働いてるんだけれど…」 「左様であったのか。ならば致し方ない。私のような厄介者が転がり込んでは迷惑であろう?」 「いや…迷惑とかじゃないけど…でも、帰る方法がみつかるまで、ここにいてくれてもいいよ。ただ、その代わりオレの愚痴を聞かされることになるかもしれないけれど」  すると六衛門はひれ伏すように頭を下げた。 「すまん。本当にかたじけない。野宿でもよかったのだが、このあたりには何故か野っ原も木さえも生えてはおらん。旅籠に行く金も乏しく、途方にくれていたのだ。恩に着る」  こうしてひょんなことから、六衛門はオレの家に転がり込むこととなったのだ。
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