第一章 …ってか、アンタ誰?

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 やっと彼の背中が見えてきたところで、オレは声をかける。 「ちょっと、待ってよ。何処に行くつもり?」 「………」  彼は立ち止まって振り返る。凄くばつが悪そうなのがよくわかる。 「行くあてないんだろ?」 「……面目無い」  我ながらお人好しだと思ったけれど、取り敢えず何か良い考えや方向性が見えてくるまで、助けてやろうと思った。 「名前、忘れたんだよな?」 「すまん」 「じゃあさ、仮の名前を付けよう」 「…承知した」 「うーん、何がいいかなぁ」  何かヒントになるものが無いか見ていたら、町名のプレートが目に入った。    『高円寺6丁目』 「……高円寺六衛門…とか?」  さすがに適当過ぎるかと思ったけど、見た目30前後の男にキラキラネームをつけるわけにもいかない。あくまで、応急措置だ。それでも、彼はさっきまでの暗い顔から打って変わって、まるで水を得た魚のような笑顔を見せた。 「おお!なんだか落ち着いた気分になった。本当にかたじけない」  ぺこりと素直に頭を下げる姿が、案外可愛い。そして盛大にお腹が空腹を告げる音を立てた。 「腹減ったなぁ。一緒にカップ麺でも買って帰ろう。オレの家に泊まりなよ?その代わり、部屋は狭いから」  こうして、オレは不思議な六衛門を連れて帰った。
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