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やっと彼の背中が見えてきたところで、オレは声をかける。
「ちょっと、待ってよ。何処に行くつもり?」
「………」
彼は立ち止まって振り返る。凄くばつが悪そうなのがよくわかる。
「行くあてないんだろ?」
「……面目無い」
我ながらお人好しだと思ったけれど、取り敢えず何か良い考えや方向性が見えてくるまで、助けてやろうと思った。
「名前、忘れたんだよな?」
「すまん」
「じゃあさ、仮の名前を付けよう」
「…承知した」
「うーん、何がいいかなぁ」
何かヒントになるものが無いか見ていたら、町名のプレートが目に入った。
『高円寺6丁目』
「……高円寺六衛門…とか?」
さすがに適当過ぎるかと思ったけど、見た目30前後の男にキラキラネームをつけるわけにもいかない。あくまで、応急措置だ。それでも、彼はさっきまでの暗い顔から打って変わって、まるで水を得た魚のような笑顔を見せた。
「おお!なんだか落ち着いた気分になった。本当にかたじけない」
ぺこりと素直に頭を下げる姿が、案外可愛い。そして盛大にお腹が空腹を告げる音を立てた。
「腹減ったなぁ。一緒にカップ麺でも買って帰ろう。オレの家に泊まりなよ?その代わり、部屋は狭いから」
こうして、オレは不思議な六衛門を連れて帰った。
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