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家に向かう道中、やはり六衛門はキョロキョロとしていた。
「なんと色鮮やかな行灯なのだ!?しかも眩いほどの明るさだ」
きっと街灯やネオンサインのことを言ってるんだろうな、と思いつつ、オレは軽く聞き流していた。
そして、1Rマンションの自宅に辿り着く。オートロックを解錠していると、六衛門が手元を覗き混んできた。
「其の方、何をしておるのだ?」
「ああ」
いちいち"其の方"と呼ばれるのも違和感が出てきた為、オレは六衛門に向き直した。
「其の方って言い方、オレにはなんだかピンとこないからさ、ちゃんと名前で呼んでくれるかな?オレの名前、神崎正之っていうんだけど、神埼でも正之でもどっちでもいいからさ」
六衛門は素直に承知致した、と言って頷いた。
「ところで神崎殿は、この城の主殿なのか?」
六衛門はこの6階建てのマンションを“城”だと思っているらしい。すっかり驚いているような、感心しているような様子。
「いや、オーナーじゃないよ。オレはここの一部屋を借りているだけ」
「おーなー、とは何だ?」
「うーん、持ち主ってこと」
「そうであったか…それは失礼致した。何万石の城主であろうかと思っていたのだ」
ふーん。やっぱりマンションがお城に見えたってヤツか…。なんだか面白い。やっぱり六衛門は過去の世界からやってきたに違いない、と確信した。
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