⒈ 入部

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 今日から舞莉が待ち望んでいた、仮入部が始まる。廊下に掲示してある仮入部勧誘のポスターに、初日はミニコンサートと書いてあった。  またこの間の演奏が聴ける!  周りがどの部を見学しようか迷っている中、舞莉は真っ先にB校舎4階の音楽室に向かった。 「ここが……音楽室。」  音楽の授業がまだ始まっていない上、学校探検の時には時間がなくて中まで見られなかったので、こんなに中をじっくり見たのは初めてだ。  中に入ったのはいいものの、この後どうすればいいのか分からない。 「1年だよね。じゃああっちの椅子に奥から詰めて座って。」  大きな楽器を抱えた先輩が向こうを指さした。あの楽器は確かチューバだったような。  会釈をして舞莉がそっちに目をやると、箱椅子がずらりとならんでいる。既に2人が座っていた。舞莉が座った席は運よくクラリネットパートのそばになった。  5分も経たないうちに満席となり、立ち見をする人も出てきた。 「それでは、ミニコンサートを始めます。リクエスト演奏なので、その紙の中から吹いてほしい曲を言ってください。」  手元の紙には、手書きで曲名が20曲ほど書いてある。舞莉が知らない曲の方が多い印象だ。 「『R.Y.U.S.E.I.』やってください。」  どこからか声が飛んできた。  この曲は知っている、私でも。例のダンスが流行った曲だ。 「『R.Y.U.S.E.I.』やります。」  トロンボーンパート辺りから指示が聞こえ、先輩全員は「はいっ」とキレのある返事を返す。  譜面台の上にあるファイルのページを先輩たちがめくる。男の先輩が3人、隣の準備室へと消えた。  舞莉はそれよりも、トランペットやトロンボーンの後ろにいる、キーボードに手を置いている人の方が気になった。  ドラムの人がバチを叩く。先輩は楽器を構える。もう3回叩くと(この曲はアウフタクトから始まるので)演奏が始まった。  最初の効果音。あのキーボードの音だ。しかし、他の楽器が入ってくると聞こえなくなってしまった。その後は気になっているクラリネットの音を聞いていた。  サビの手前で、準備室から男の先輩たちが出てきて踊り始めた。ああ、やっぱり。  その後、4曲演奏すると、『ユーロビート・ディズニー・メドレー』を吹いてくれた。久しぶりに聞いたせいか、または目の前で見ているせいかもしれないが、迫力にまたも驚いてしまった。  私もこんな風になりたい。
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