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第一章 出会い
「貴官らは! この日、この時よりウォルタンス共和国陸軍の一兵士となり、祖国と愛する者を守るため、その命を全うするために生まれ変わる!」
共和国陸軍の中央基地に集められた兵士たちへの少佐の有難い演説だ。その長い訓戒が終えたかと思うと脇に控えた軍曹が広場を揺らすほどの大音声を上げる。
「少佐殿に敬礼ッ!!」
新人兵士達は掛け声に応え最敬礼を取る。しかし徴兵され軍服に袖を通したばかりの若者たちの練度は低く、一糸乱れぬ行動とはならなかった。
「貴様らァ!! 少佐殿に、ひいては国に対して申し訳ないと思わないかアッ!!」
一体その体からどのようにすればそんな大声が出るのか、新人兵士たちは辟易とした。
「再度、敬礼ィィ!!」
衣擦れと軍靴を鳴らす音がバラバラと地面を揺らす、その場の誰もが再び怒号が飛ぶかと思われた。
「よい、ジャバラッド軍曹。訓練を受けた兵士ならばいざ知らず、彼らは今まで民草の一だったのだ。そう厳しくせずともよかろう」
「ハッ。これは失礼いたしましたァッ!!」
素早く少佐に向き直り敬礼を行う軍曹。更に後ろに控えた高官たちもしきりに頷く。
「では諸君、これより配属を告示する」
「名を呼ばれたものはァァッッ!! 返事と共に速やかに前に出る事ォ!!」
「サリエル・アリ・アルジェフラ」
「はいっ!」
最後の一人が名を呼ばれた。丸眼鏡を掛けた青年だ。如何にも学徒あがりと言った風体で、とても最前線が務まるようには見えない。寒貧・貧弱・貧相の三拍子が揃ったような扱けた頬と線の細い体。果たして彼がどの部隊に配属されるか、同期連中は興味津々に見守っている。
「貴官を技術開発部兵器開発特殊小隊の所属とする」
「はい!」
反射で返事をする青年。
「……は?」
しかし聞き慣れない部署にぽかんとする。
「さて全員に辞令は下した。この後、張り出される指示に従い規定の集合場所に行くこと。もちろん、遅刻厳禁であるぞ」
はっはっはと声高に笑う少佐は踵を返して青年の前から去って行く。
「こら! さっさと元の位置に戻らんかアッッ!!」
軍曹の怒号を受けて釈然としないまま列に戻るアルジェフラは仲間に肩を小突かれる。
「よかったじゃないか。あそこなら死ぬ事は無いぜ。メガネくん」
空の向こうでは、また戦争が始まっている。
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