0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここはねぇ、この世界のどこにもない新兵器を開発する部署なんだ」
テレストは倉庫をぶらぶらと手を振りながら気楽に歩いて行く。サリエルはそれに半歩左側をついていく。
「世界のどこにも」
「そ。世界のどこにも。そして世界の誰からも必要とされないものさ」
「…………そう、でありますか」
サリエルは落胆した。如何なる任務だろうと軍に所属し皇国を打ち倒し自由を獲得するための戦いであると兵隊学校で教えられたことがまた一つ無駄になった。
「君、研究に興味はあるかい?」
「はっ。兵隊学校では戦車装甲の効率化を進んで学びました。現在軍で使用されている兵装の基礎数値ならば頭に入っております」
「はっはっ、頼もしいね。しかし僕が聞いているのはそうじゃないんだ」
突き当たりの扉に行き当たり立ち止まったテレストはちらりと青年を見た。
「君は元来、探求心があるかと聞いている」
サリエルは言葉に詰まった。試されていると感じた。彼はこの質問で自分を測ろうとしている。役に立つか、立たないか。軍人は命令に徹底して従い、個ではなく一つの機械として動くことを前提に命令は下される。この質問が果たして何を測ろうというのか彼には見当つかないが、直感でそう感じたのだ。
「私は……」
植物図鑑片手に野山を駆けまわった少年時代が脳裏に浮かんだ。
「私は探究心があります」
テレストは今度は振り返り、にっこりと笑う。その笑顔に得体の知れないものを感じて青年は背筋を伸ばした。
「いい覚悟だ。けれどそれはここでは無意味だ。棄てなさい」
彼は前に向き直って扉に手をかける。
「軍属であれば命令は絶対。僕達が歓迎しようとしまいと君はもう一員の一人であり、この大罪を背負う罪人の一人だ。あえて言おう」
ギイ
扉が開く。地下への階段が見える。
「ようこそ」
最初のコメントを投稿しよう!