ゆうくん

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ゆうくん

最近仕事が忙しくて、毎日帰宅するともう0時なので、書く時間が全然ない…😭 9月ごろまでこの調子らしいです。くそーー ☆★☆☆☆☆☆☆ 家まで走って帰り、ドアをバタンと閉めた瞬間涙が溢れた。 「ゆうくん…ゆうくん…」 ふらふらしながらベッドまで辿り着き、サイドテーブルに香水の瓶をそっと置いた。そこでもう立っているのも限界になり、床に崩れ落ちベッドに突っ伏した。 ゆうくんはいない。僕にしか見えてない。じゃあ、本物のゆうくんはどこにいる? ゆうくんに会いたい…。 顔を横に向け、瓶に手を伸ばした。 少しだけ。幻覚でもいいから、ゆうくんを一目見られれば、僕は…… 瓶の蓋を外すと、いつもの守門の匂いがした。 ああ、本当に…これが原因だったのか。全く、守門は馬鹿なことするなぁあ…あ……あああ… 脳みそをくるくるとかき混ぜられたような感覚がして、僕は、僕は……唐突に思い出した。 「ゆうくんは死んだ。僕のせいで」 「へえ…思い出したのか」 何度も聞いたあの声がして、ばっと顔を上げた。 ゆうくんだ。ゆうくんがベッドの上に座って、僕を見下ろしていた。 体に触れようと手を伸ばすと、さっと避けられる。 「ゆうくん!ここにいたんだね。会いたかった」 「いつだって俺は来るだろ。お前が呼んだ時は」 「そうだね。だってゆうくんは」 「蜂谷のことが好きだから」 「…え?」 「お前が望むなら何でも言ってやるよ。好きだ、蜂谷。子どもの頃からお前を愛してる」 「……違う……」 ゆうくんはそんなこと言わない。好きだとか愛してるとか、そんなこと。 でも言われると、心がふわっとする。うれしくて、落ち着かない。 「俺がどうして死んだか、覚えてるか?お前のせいだ。お前を守ろうとしたから」 心臓の鼓動がどくんと大きく体中に響く。 「死ぬなら刺されるのはおすすめしない。めちゃくちゃ痛いからな」 「刺され……」 包丁が、ゆうくんの心臓に刺さっていた。 どくん どくん そのままぐりぐりと肉を抉られ、血がとめどなく流れていた。 「い…や……」 大学1年生の時、僕はストーカー被害にあっていた。 ストーカーはセフレだったゆうくんの存在に気づき、理想を破壊されたとか言って僕を刺そうとした。 そしたら…ゆうくんが出てきて…。 「ゆうくん…ごめんなさい。ゆうくんが、死んじゃうなんて…」 「死んでても生きていてもどっちでもいいだろ。俺はここにいる。蜂谷が会いたければ、いつでも会える」 「ゆうくんはここにいる」 「そうだ」 「ゆうくんは僕のことが好き」 「ああ」 「ふっ…ううっ…」 「泣くなよ。俺は…」 ボリュームを捻ったみたいに急にゆうくんの声が小さくなって、姿がすーっと見えなくなっていく。 足りない。香水が足りないんだ。 僕は瓶に手を伸ばし、部屋中に香りを噴射した。守門の匂いが立ち込めて、ゆうくんの気配をうっすら感じる。 「足りない…。もっと吸わなくちゃ…」 瓶を机にガンとぶつけて割った。飛び散ったガラスと一緒にさっきより強い匂いがもわっと広がる。 「ゆうくん…」 机の上に溢れた液体に頬をくっつけて匂いを吸い込んだ。ガラスの破片がチクチクと痛いけど、そんなのどうだっていい。 「ゆうく…」 「本当に欲張りだな、蜂谷は」 ゆうくんが僕の顔を覗き込んでいる。ふふっと笑うと、ガラスがより深く刺さった。どうってことない。ゆうくんはこれよりもっと痛い思いをした。僕のせいで。僕のことを好きなせいで。 「ゆうくん、好きって言って」 「好き」 「もういっかいいって?」 「好きだよ」 「ふふ、うふふ」 ゆうくんの顔に近づいて頬にキスをした。 「キス、できる」 「ああ、できたな」 「ゆうくんはここにいる。思い込みじゃない」 「今の感触が思い込みかどうかはどうやって判断するんだ?」 「そんなの、どうでもいい」 頭の中がふわふわとしている。眠くて目を閉じるとそこにもゆうくんがいて、うわあ本当に僕は幻覚を見てるんだなと思いながら眠りに落ちた。
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