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守門vsゆうくん
「それは、知ってます。さっき山内氏に連絡をとろうとする際に調べました。山内氏が結婚していたこと。でも、でも、結局2人は両思いです。だから会わないようにしていたんじゃないですか?」
守門が切羽詰まった様子で口を挟んだ。するとゆうくんは、ふんと鼻で笑って守門の方へ向き直った。
「お前に何がわかんの?」
「わ、わかります。俺は小学校の頃からずっとずっと蜂谷くんのことを見てたんです」
「見てただけじゃん。物陰からバレないようにただ見てただけ。で、俺と目が合うと怯えたように隠れる。こいつ蜂谷と話したこともないくせに、変に執着して気持ち悪いやつだと思ってたよ」
「………そんなに、ちゃんと覚えていたんですね、俺のこと」
「別に。忘れてたけど、お前の泣き顔見てたら思い出したわ。気持ち悪いから1回殴っとくかと思って呼び出したら、お前手を振り上げた時点で泣き出したよな」
「泣いたのに、殴りました」
「殴ったらもっと泣くだろうからな。お前は全然好みじゃないけど、泣き顔の悲惨さにはぐっときた」
「なんですか、それ」
ゆうくんはにやっと笑った。当時の守門は可哀想だけど、ゆうくんはこんな人だからとしか言えない。
「お前は蜂谷のことをわかってない。蜂谷はただ自分がちやほやされていないのが嫌なだけだ」
「ちょ、ゆうくん…」
「それくらいわかります。蜂谷くんはお姫様なんです」
「じゃあなんでわかんねえの?蜂谷が好きなのは俺じゃなくて、幼なじみに愛される自分自身だろ。蜂谷のそういうところは嫌いじゃないけど、一生捧げる気はない」
「………」
反論したいけど、言葉がでてこなかった。ゆうくんのことは好きだ。でもどうして好きかと考えると、僕のお願いを素直に聞いてくれるから…なのかもしれない。乱暴で嫌がらせが大好きなゆうくんが、僕には従順でいてくれるから…。
「お前ならぴったりじゃん。そのストーカーっぽい粘着質な愛があれば、蜂谷の欲求を満たし続けられるだろ。それにお前、蜂谷の好みのタイプに当てはまりそうだし」
「は?!僕の好み?守門が?なんで?」
思ってもみなかった言葉に憤慨していると、ゆうくんはどうでもよさそうに答えた。
「だってお前、佐瀬が好きだったから。こいつもなんか似たような変人だろ」
「いや、僕は翔也に恋愛感情なんてないんだって。僕はただ、翔也が陸上競技で活躍してほしいだけで」
「お前は変にプライドが高いから、失恋したのを素直に認められないんだよな」
「……はあ?!失恋?!」
「えーっと…誰だっけあいつ、佐瀬の彼氏。あいつのこと散々邪魔してって頼んできて、ちゃんと協力してやったじゃん。結局上手くいかないどころか佐瀬に嫌われて終わったよな」
「だからそれは、好きだったわけじゃないんだって。ていうかそもそも翔也と守門は全然似てないし」
「ま、なんでもいいけど…」
そう言ってゆうくんはすっと腕時計を見た。
「そろそろ帰るわ。あとは2人で和解するなり絶縁するなりすれば?蜂谷、ドラッグはやめとけよ」
「ドラ……うん、まあ、わかった」
ゆうくんはあっさり帰っていった。会社に電話かけたって言ってたし、仕事中なのに来てくれたのかな。今度改めてお礼しよう。
玄関まで見送った後振り返ると、守門が気まずそうに立ち尽くしていた。
「……あの、蜂谷くん。もし体調に異変が出たら、病院に行ってください。俺にも教えてください。あとほっぺ、少し血が滲んで傷がついてるので手当が必要です。薬局で色々買ってきます。えっと、後は大丈夫でしょうか。気分は悪くないですか。最初に気にするべきだったのに、申し訳ありません」
早口でそう言って、守門は頭を下げた。
「救急セットあるから、薬局には行かなくて大丈夫だよ」
「わかりました。では俺も帰ります。もう泣いていないので、大丈夫です」
ぱたぱたと玄関まで歩いてきて、僕の前で立ち止まった。
「ど、どいてください」
「守門は今後どうするの?」
「どうするって…帰ります」
「僕のこと、諦めるの?」
「俺は蜂谷くんと結婚できないことより蜂谷くんに嫌われることの方がいやです。これだけ迷惑をかけてしまったので、撤退しなければ嫌われると判断しました。間違っていますか?」
さっきより落ち着いた様子で、守門はぼそぼそと話した。
「……いいんじゃない。守門がそうしたいなら」
「では帰るので、どいてください」
「…帰る前に、瓶を片付けていってよ。机の上にガラス片が散乱しちゃったから」
「えっ…そうですか。それは大変ですね。わかりました。ほうきとちりとりとガムテープと新聞紙、ありますか?」
「まあ、それっぽいものなら…」
「スリッパも貸してほしいのですが」
「これしかない…履く?」
履いてたスリッパを脱いで、守門の方へ足でちょんとつついた。守門はしばらくフリーズしていたが、カクカクと首を横に振った。
「そんな、ふしだらな…」
「は?」
「か、買ってきます。すぐ戻るので、蜂谷くんはガラスに近づかないでください」
そう言って守門は僕を押し退け外へ飛び出していった。
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