後片付け

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後片付け

最近更新滞り気味ですみません!妊娠×深夜残業という環境でなかなか書く時間がなく…。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「なんで引き留めたの?」 「うわっ!」 僕しかいないはずの部屋にゆうくんの声が響いた。幻聴はまだ続いていたらしい。 「もういいよ。本物のゆうくんはちゃんと生きてた。だからもうこれ、いらないって」 「お前がいらなくても香水の効果はまだ消えてないから」 「えー…」 「それで、なんで引き留めたわけ?」 「…幻聴に答える必要ないし」 なんでかなんて、わからない。たださっさと帰られるのが癪に触っただけだ。これだけ色々かき乱しておいて、ちょっと上手くいかなかっただけで逃げようとしているのも。 「僕の記憶、戻るのかな。事実と食い違ったままで、何もぴんとこないんだけど」 「知るか。守門や椿原に聞けば」 「あのふたりだって、わかんないでしょ。僕で実験してたようなもんだし…」 ガチャッ 突然勢いよく扉が開くと、守門が息を切らせて入ってきた。 「めちゃくちゃ早いね」 「い…今…、誰かと話して、ましたか?声が、聞こえたんですが…」 「えっと…ひとりごと」 「まだ山内氏が見えるんですか?」 守門は辛そうな顔で問いかけた。 「見えないよ」 聞こえてるけど。 そんなこと言ったら守門がまた泣き出すかもしれない…。 「それより早く片付けて」 僕は守門の腕を強引に引っ張り、部屋へ上がらせた。 物置からほうきとちりとりを出し、守門に渡そうとしたが、守門はそれに気づかず割れた瓶をぼーっと見ている。 「守門、どうしたの?」 「いえ……凌くんのことを、少し思い出しただけです」 「…そんなに椿原と仲が良いの?」 「凌くんは俺の友達で、共同研究者で、運命の番です。といっても番契約は結んでいません。カナダでは仲良くしていましたが、トラブルが起きたので今は良くありません」 「トラブルって?」 「凌くんの合意がなければ話せません」 「………」 運命の番で、合意がないと話せないトラブルって、そんなの……。 「ヤッたんだろうな」 不意にゆうくんの声が聞こえて、体がびくっと震えた。幸いにも守門は黙々と瓶を片付けていて、気づいていない。 「まさか本物の運命の番がいたとはな。もし椿原が川名にフラれたら、守門と椿原がくっつくんじゃねえの」 …だったらなんだっていうんだ。僕には関係ない。 「臆病だな蜂谷ぁ。自分が傷つく気配を感じて距離を置こうとしてるな」 所詮頭の中の存在だから、こっちが黙っていてもゆうくんは心の中を全て把握している。 「……真白」 「…えっ?」 守門は手を止め、驚いた顔で僕を振り返った。 「俺の名前、覚えてたんですね」 「…まあ」 「何か用ですか。気分が悪かったら寝ていて大丈夫です」 「………」 …それだけ?僕がせっかく…… 僕は黙ってベッドに横になり、守門の作業風景を見つめた。 香水は全て拭き取られ、守門は窓を開けて風を通した。あの匂いは、もうほとんどしない。 「守門、こっち来て」 「はい。なんですか」 守門は素早くベッドに寄り、僕に顔を近づけた。 僕は守門の肩に手を回し、抱きつくように顔を埋めた。 「は、は、蜂谷くん?なんで…こ、こんな…」 「守門の本当の匂いが知りたかった」 「そ、そんな、わざわざ嗅ぐほどのものでは…」 「全然しないね、あの匂い」 「臭くないですか?」 「うん。汗のにおいはするけど」 「臭いんじゃないですか」 守門はさっと立ち上がり、僕から離れた。 「運命の番じゃなくても、守門がαなのは本当なんでしょ?」 ベッドに寝転んだまま、守門の目をじっと見つめた。 「そうですが…」 守門はすーっと目を逸らして、ガラスの破片の回収を再開した。 「αとΩは相性がいいんだよ。だから守門の匂いは好きなのかも」 「好……い、いえ、たしかにそういう俗説はありますが、Ωがαの匂いを好ましく思うという説に科学的根拠はありません。ヒート中であればまた違いますが」 「そうなんだ。じゃあなんで好きなのかな」 「蜂谷くんの好みの問題です」 「へえ…じゃあ、守門は僕の匂い、好きなの?」 「え?どうしてですか?」 「僕のことが好きなら、僕の匂いも好きになるってことでしょ?」 「な…なぜですか?どう繋がったんですか?」 「科学的根拠がないなら、試してみようよ。ほら、こっち来て僕の匂いかいでみて」 「蜂谷くん、何がしたいんですか」 守門はガラス片の入ったゴミ袋をキュッと縛り、新聞紙でつつんだ。そしてそれを再びゴミ袋に入れ、部屋の隅に置いた。 「これは燃えないゴミの日に出してください。危険なので袋の外側に注意書きをしたほうがいいと思います。後は掃除機をかければ終了ですが、それは蜂谷くんが自分でやってください。俺は帰ります」 「え?」 守門は手早く荷物をまとめ、すたすたと玄関へ向かおうとした。 「なんで帰るの?」 咄嗟に起き上がって守門の腕をつかむと、守門は真顔で僕を振り返った。 「ガラスは片付けました」 「で、でも、まだ掃除機かけなきゃいけないんでしょ?」 「蜂谷くん、俺は嫌なんです」 「嫌…?なにが…?」 「俺は蜂谷くんのセフレにはなりたくありません」 「は…?」 「蜂谷くんは俺のことを好きじゃないのに、帰るのを止めたりスキンシップをしたりしています。つまり俺をセフレにしたいんですよね。一応αなので」 守門は早口にそう言って腕を振り払った。 「俺は蜂谷くんと結婚したいです。抱きしめたいです。キスがしたいです。性行為もしたいです。でもそれは、蜂谷くんが俺のことを好きじゃないとしたくありません。こんなに色々しでかしておいて、図々しいと思われるでしょうが、それだけは譲れません。俺は体でお詫びはしません」 「意味…わかんないんだけど…」 「とにかく、これ以上この空間にいたら危ないと判断しました。きっと蜂谷くんは香水の影響で正常な判断ができなくなっているんだと思います。本当に申し訳ありません。ですが俺は帰ります」 「………」 わからない。全然わからない。 僕のこと好きって言ったのに。変な香水でどうにかしたいくらい欲しいはずなのに。どうして僕が近づくと守門は…。
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