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証拠
「えーっと、だめでしたね」
数日後、川名はあっさりと敗北宣言した。
「…守門、なんて言ってたの?」
「ライン送ったけど既読にすらならない。話があるから会いたいとしか送ってないのに」
「…そう」
「…あれ?蜂谷、元気ない?」
「………」
なぜこんなに上手くいかないのか、よくわからなくなってきた。好きな相手に告白されたら普通そこでハッピーエンドなのでは?
相手を疑うターン必要??
「自白も証言もだめだったから、あとは…物証?」
「物証って何?」
「物的証拠。物品や文書などの証拠」
「意味はわかるけど。気持ちの問題を証明するのに物品とかなくない?」
「まあそうね」
「………」
「ま、一旦忘れなよ、守門のことは。蜂谷がムキになるほどの男じゃないって」
「…知ってるし」
腹が立つ。何もかも。
八つ当たりだとはわかりつつも、川名を睨んだ。
「……東急ハンズ行ってくる」
「え、ハンズ?なんで急に」
「物証、調達してくる」
「この後講義あるけど」
「サボる」
「えー…?」
拒否されるごとに、自分の気持ちがはっきりしてくるのを感じる。
僕は守門が好きだ。偽物のゆうくんだってそう指摘しようとしていた。あれが僕の作り出した幻覚なら、ゆうくんが話していたのはきっと僕の内心だ。
大学の近くの東急ハンズであるものを購入し、守門に「副作用の件で話がある」と嘘のラインを送って図書館の前に呼び出した。そう言えば守門は絶対に来るから。
「どうしましたか蜂谷くん。気分が悪いですか。禁断症状が出ましたか。記憶喪失が」
「これを受け取ってほしい」
「え?」
僕は強引に守門の手を取り、さっき買ってきたものを握らせた。
「えっと…これは鍵ですか?」
守門は怪訝そうな顔で英語の例文みたいなことを言っている。
「僕は、守門が好きだよ」
「………」
「それはその証明」
「はあ。蜂谷くん家の合鍵ですか?」
「ううん、これ」
僕は首元に巻いたチョーカーを指さした。
「……え?」
「守門が鍵を開けないと、僕はうなじを噛まれない」
「お返しします」
守門はすぐに鍵を押しつけてきたが、僕は手を後ろで組んで受け取らなかった。
「な、なんでですか?」
「守門のことを好きな証明、しろって言ったよね?僕は守門以外と番にはなりませんっていう証拠だよ」
「おかしいです」
「何がおかしいの?」
「蜂谷くんは本気で俺を好きになったんですか?そんなの蜂谷くんじゃありません。蜂谷くんは俺のことなんて好きになりません」
「なんでそんなこと言うの?僕は僕だよ」
「俺は、他人に好かれたことなんてないんです。普通にしゃべれないし、すぐに怒らせてし、気持ち悪いとよく言われます。今まで友達になれたのは、凌くんしかいなくて…」
「椿原は特別なんだ」
「はい。特別です」
「………じゃあ、椿原と付き合えば」
「俺が好きなのは蜂谷くんだけです。凌くんは友達です」
「その僕が守門を好きって言ってるんだけど」
「それはおかしいんです。蜂谷くんはきっと俺のことを誤解してるんです。俺のどこを見て好きになったんですか?それは全部勘違いだと論破できる自信があります」
「……守門が、僕のことを好きだから」
「え?」
僕は深呼吸して、守門の目を見つめた。
「守門に好きだって言われ続けて、僕も守門を好きになっちゃったの。僕はずっと、僕のことを一番に愛してくれる存在が欲しかったから」
ああ…やっぱり馬鹿みたいだ。小学生みたいなこと言ってる気がする。
じわじわと後悔に蝕まれつつも、僕は守門の返事を待った。
「それなら…解決ですね」
守門はカクカクと頷きながらそう言った。
「解決?」
「俺が蜂谷くんのことを好きなのはこの世で一番確かで永久不変なことなので、蜂谷くんは何も誤解していません。つまり俺たちは両思いということですね。えっと…どうしますか。今から子どもをつくりますか」
「落ち着け」
「はい。えっと…蜂谷くん、好きです」
守門はどこかふわふわした様子で僕の手を握った。
「うん。僕も」
「う、わ、わ、これはすごいですね。俺が蜂谷くんのことを好きだと思うほど蜂谷くんは俺のことを好きになるんですね。幸せ永久機関ですね」
「……守門って、難しいね…」
さっきまであんなに頑なに拒否していたのに、自分が納得できればあっさり信じてはしゃぎだすとは。しかも僕の馬鹿みたいな理由で…。
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