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やりたいこと
お久しぶりになってしまいました!すみません!
スターありがとうございます☆
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「両思いになったら、やりたかったこととかあるの?」
ずっとふわふわしている守門に、さらに舞い上がりそうな質問をしてみた。
「あ、はい。結婚ですね」
「すぐそれ言う…その前段階で何かないの?」
「家族への挨拶ですか?」
「じゃなくて…恋人として、やりたいこと…」
「考えたこともなかったです。恋人になったらできることは、結婚してからもできるので」
もうこのまますぐ婚姻届でも出しに行きそうなテンションに、僕は慌てた。
「守門が結婚したいのはわかったよ。でも僕としては、すぐに結婚しようとは思ってないんだ」
「どうしてですか?」
「えっと…せめて就職してからがいいと思うな。経済的に独立してから、家庭を構えるイメージだったから」
「…なるほど、わかりました。一理あります」
「だからそれまでの期間、お互いのことをもっとよく知って、あ、愛を、深めて…いけたらというか…」
めちゃくちゃ恥ずかしいセリフが出てきちゃった。なんだよ愛って。
「わかりました!お互いに情報を開示し、愛を深めつつ、経済的に独立する手段を探しましょう」
「そ、そうね」
「では俺は今から経済的に独立するために大学の講義を受けにいってきます。その後時間があったら会いましょう」
「僕今日は14時半で終わるけど」
「俺は18時ごろまであるんです。なのでもし蜂谷くんがよければ、晩ご飯を一緒にとりましょう」
「うん。いいよ」
僕がうなずくと、守門は僕に一歩近づき、ぎゅっと抱きしめた。
「好きです、蜂谷くん」
「…ここ、外だよ?」
「はい、知ってます」
守門はパッと離れてにこっと笑った。
「じゃあ、また夜に」
「うん…」
…積極的だ。周りの目を一切気にしている様子がない。
まあ、そういうのは、嫌なわけじゃないけど…。
「うわー、にやけてるね」
「えっ」
いつのまにか隣に川名が立っていた。
「上手くいってよかったな」
「見てたの…?」
「蜂谷結婚すんの?」
「いやそれは……そもそも守門は結婚が何なのかわかってるのかな」
「知らんけど、守門に常識が通じると思ったらだめでしょ」
「…だよね」
そうだ、と川名は思い出したようにスマホを取り出した。
「ツバキに報告してもいい?蜂谷の健康状態と、守門の恋愛について気にしてたから」
「いいけど、そういえば川名、結局教えてくれなかったよね?椿原とどうなったのか」
「あー…うん。音信不通ではなくなったよ」
「そうじゃなくて、付き合う付き合わないの話」
「うん…とりあえず、保留になった」
「え…まだ保留なの」
高校の頃からずーっと煮え切らない関係でいつづけている理由が、僕にはいまいちぴんとこない。
川名はぼーっと遠くを眺めている。
「ツバキは考えすぎなんだよ。自分が悪い方向に」
「えっと…守門にキスしたから、付き合えないんだっけ?」
「それは一応解決したつもりなんだけどな。俺も蜂谷とキスしたことあるからおあいこだよって」
「…は?キス?」
僕が川名とキス…全く身に覚えがない。まさか改竄された記憶の一部なんだろうか。
「あ、ごめん。実際キスなんかしてないよ。ツバキに嘘ついただけで」
「やめてよ気持ち悪い」
「ひどくない?」
「…僕は何となくわかるけど、椿原の気持ちも」
「そうなの?蜂谷が?」
川名は不思議そうに僕を見つめた。
「フェロモンを制御できないから、川名と付き合う自信がないってことでしょ?Ωはαと付き合うケースが圧倒的に多いんだよ。番になれば無差別にフェロモンを撒き散らすことがなくなるから」
「そもそも由比のせいで蜂谷は誰とも番になれないから、どの性別と付き合っても同じことだと思うけど…」
「川名がβだからいけないんじゃなくて、相手に誠実でいたいと思うほど、誰とも付き合えなくなるんじゃないかってこと」
「そんな仮定の話、気にしなきゃいいのに…」
「まあ、そうだね」
気にするどころかフェロモンを利用して色んな人とやりまくってた僕には、なんとも言えない。
「…でも、とにかく音信不通ではなくなったから。夏休みに旅行に行く約束もしたし」
「へー。どこ行くの?」
「具体的には決めてないけど、一泊二日の温泉旅行とか」
「そんなのもう付き合ってる奴らの行き先じゃん」
「色々深めたいよね」
「はいはい」
椿原は、今くらいの距離感が一番いいのかな。付き合ってるわけでもなく、でも両思いで、遠距離だからあまり会わない…みたいな。
自己満足が過ぎるな。
…まあ、僕には関係ないけど。
その後、午後の講義を川名と一緒に受けて、僕は一旦アパートへ帰ることにした。
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