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結婚の目的
桃のケーキは美味しかった。立葉さんの渾身の作らしい。満足満足と思いながら食べていると、守門が僕の顔をじーっと見ていた。
「何?早く結婚の話しようって?」
「いえ。みつるくんのもぐもぐ顔を見てるだけです」
「食べづらいからやめてよ〜」
「可愛いです」
真面目な顔して何言ってるんだろう。なんか出鼻を挫かれた気分。
「反省しました。みつるくんの意向をあまり確かめていなかったのが問題でした」
守門は何の前置きもなくいきなり頭を下げた。
「いや、別に、反省までしなくてもいいけど…」
「改めて伺いますが、みつるくんは俺と結婚してくれますか?今すぐにでなくともかまいませんがなるべく早めに」
「えっと……」
慎重に答えなくちゃいけない。なにしろ守門は全て本気にする人だから。でも結婚…結婚……。
「なんでそんなに結婚したいの?正直、今する必要性があんまりわかんなくて…」
「子どもの頃は、好きになったら結婚するものだと思ってました。今もその気持ちがないわけではないですが、別の理由もあります」
「別の理由?」
「みつるくんがオメガだからです」
「…え?」
全く想像していなかった答えが返ってきた。
「俺はみつるくんが大好きです。みつるくんのことが好きな人の中で俺が一番みつるくんのことを好きです」
「それは…そんな気がするけど」
「なのでみつるくんが他の人と結ばれることは、避けなければいけません」
守門は右手を伸ばし、俺のうなじにそっと触れた。
「俺以外とセックスできないようにしたいんです」
唐突に出てきた言葉に心臓がドクンと震える。
守門は僕の目を射抜くように見つめた。
「俺と結婚して番になってください。永遠に俺に縛られてください」
「………」
咄嗟に言葉が出ずに固まっていると、守門はすっと手を戻した。
「これが俺の目的ですが、どうですか」
「えっ…と……」
「顔が赤いですね」
「ううう…」
我慢できず、僕は床に寝転がってゴロゴロした。
「どうしましたか。背中が痒いですか」
「真白が急に独占欲出してくるから…ドキドキした…」
守門は真上から僕の顔を見下ろした。
「急じゃないと思います。俺は小学生の頃から、みつるくんを独り占めするために行動してきたので」
「そ、そうかもしれないけど、知らなかったし…前に僕がスキンシップした時は、あんなに緊張してたのに…。性的なことが苦手なわけじゃないの?」
「完全に両思いの状態でないと、セックスしたくありません。でもそうなる前にみつるくんが他の人とするのは嫌です」
「うん…?」
「えーと、つまりですね…」
守門は人差し指で僕の顔の輪郭をなぞりながら言った。
「みつるくんの自由を全部奪って俺のものにしたい。でもそれを使うかどうかは俺の自由。大げさに言えば、そういうことです」
「………」
「婚姻届を提出しましょう。そして俺に頸を噛ませてください。どうですか」
……すっごいわがままだ。僕の都合なんて何も考えてない。
でもその強引さが、僕に対する強い感情の表れなのかと思うと、心臓を素手で掴まれているような緊張感と圧迫感に襲われつつ、むしろそれが心地よいと感じてしまう自分がいる。
「い……いずれ、ね」
小さい声でそう答えると、守門は平然と詰めてきた。
「いつですか?大学卒業後ですか?俺は医学部なので卒業するのがみつるくんより遅いんです。みつるくんの卒業に合わせてでいいですか」
「うんうん、考えとくね。ていうか真白って医学部だったね。医者になるの?何科?」
無理矢理話題を転換させた僕に、守門は少しむっとした顔を見せた。
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