将来

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将来

「…まあ、結婚するからにはお互いの将来設計を知る必要がありますね」 「うん、そうそう」 「俺は医者ではなく研究者になりたいと考えています。そもそも、俺が医学部に入ったのはみつるくんと結婚するため、運命の番になる方法を見つけたかったからです。患者を見て病気を治すということは頭にありませんでした」 「研究者…なるほど。真白にはそっちのが似合いそう」 医者になったら患者に無神経なこと言ってトラブルになりそうだし…と言いそうになって慌てて口をつぐんだ。案外気にしてそうだしな、守門は。 「目標は達成しましたが、オメガバースの研究は面白いので、引き続きやっていきたいです。特に運命の番…サンプルが非常に見つけづらいにも関わらず、自らが実験対象になれるというのは素晴らしいことだと思います。凌くんがこの先どうする予定かわかりませんが、協力してもらえばかなりの成果を上げられるはずです」 「……ふーん。協力…」 ここで椿原か…嫌だな。 たぶん顔に出てしまったと思うけど、守門は全く気づかない。 「とりあえず学部を卒業した後は大学院に進み、博士課程を修了したいと考えています。その後は、東京にオメガバース関連の大きな研究所があるので、そこに入れたら一番いいですね」 「すごい。ちゃんと考えてるんだ」 「別に、やりたいことを言ってるだけで、どれほど現実味があるかはわかりません。みつるくんはどうする予定ですか」 「僕は就職する予定だから、まあ…ぼちぼち就活しないとなーって感じ」 「具体的に働きたい会社はありますか」 「まだあんまり…。大学で英米文学を勉強してるし、なんか英語を使う仕事ができたらなーと思うけど」 「カナダで働くのはどうですか」 「……え?」 想定外の提案をされて驚いていると、守門はみるみる笑顔になった。 「すごく良くないですか?俺、またカナダに戻りたい気持ちもあったんです。やはり向こうのほうがオメガバースの研究は進んでますから。みつるくんも、カナダなら絶対英語を使う仕事ができると思います。一緒にカナダに行きましょう」 「いやいや、海外で働くって…僕そんなスキルないよ」 「大丈夫です。俺が卒業するまでに時間があるので、みつるくんは一旦日本で就職して、英語力を磨き実務経験を積みましょう。俺はカナダの大学院に行くことにするので、そのタイミングでみつるくんも就職です」 「え…うん……とりあえず色々調べてみる…」 「カナダはいいですよ!自然豊かですし、色んな人がいます。みつるくんもきっと馴染めます」 「うん…僕まだカナダのこと全然知らないから…椿原にも聞いてみようかな」 「え〜、凌くんに聞くくらいなら俺に聞いてください」 守門は不満そうに唇を尖らし、僕の左腕を両腕で抱きしめた。 「…可愛い」 「え?俺のことですか?」 「そうだよ」 「みつるくんのほうが可愛いですよ」 「誰と比べてどうじゃなくて、今の真白が可愛いと思っただけ」 「俺は可愛くないです。幼少期以来そんなの言われたことありません」 「他の人がどう評価しようが、僕が可愛いと思ったの」 「わかりました。俺は可愛いです」 「何それ。ふふ」 なんだか守門らしいなと思って自然と笑っていた。すると守門は、じっと僕の顔を見つめた。 「どうしたの?何かついてる?」 「平和な昼下がりだと思いました」 「僕はもうちょっと平和から遠ざかってもいいけど」 「なるほど…黒ひげ危機一発でもしますか」 「うん…違う…」 「ジェンガですか」 「………」 こんな調子で、結婚したら本当にセックスしてくれるんだろうか…?怪しいな…。せめてキスくらいしたいのに…。 「みつるくん、どうしましたか。何が違うんですか」 「キスしたい」 「え?」 「キスしたいキスしたい。キスキスキス!」 「はい。またいつかしましょう」 「はあ?!」 守門は腹が立つほどにこにこしている。 「嬉しいです。そんなに俺とキスがしたいんですね」 「何それ?真白はしたくないの?」 「キスをする権利を得たのにあえてしない贅沢を堪能しているんです」 「よくわかんない…焦らして楽しんでるってこと?」 「焦らして楽しむ…」 守門は驚いたようにぽかんと口を開けた。 「どうしたの?」 「そうかもしれません。俺はみつるくんを愛していて、みつるくんの願いならなんだって叶えたいと思っていたはずなのに、どうしてでしょうか」 「えっ、嘘でしょ?真白はずっと自分の欲望最優先の自己中人間じゃなかった?」 「え?」 「ん?」 「はい…」 納得しているのかよくわからないけど、守門はとりあえず頷いた。 僕と結婚するために怪しい香水をかがせたのは絶対に忘れない。
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