ひとめぼれ

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ひとめぼれ

「この世界は不平等だよね」 ある朝の通学中、隣を歩いていた友人の椿原が突然そう語り出した。 「まあ、そうだな。俺みたいにごく普通の顔に生まれるヤツもいれば、ツバキみたいに美しい顔に生まれるヤツもいる」 「いや顔の話じゃなくてさぁ」 椿原は俺の相槌をばっさり切り捨てた。 ああ、眠い。今日も1日が始まってしまう。嫌いじゃないけどあんまり刺激がないんだよなぁ。 俺と椿原は、運動場の横を通って、校舎へ向かっている。 運動場では、色んな部活の朝練が行われている。活気に満ちてて楽しそうだ。入学当初は俺も何かやろうかと思ってたけど、どうせ運動音痴なので諦めてしまった。 「川名、聞いてる?」 椿原はちょんと俺の肩を叩いた。 「うん…」 その時俺の意識は、完全に運動場の方へ向いていた。運動場の真ん中に、大きいスポンジみたいなやつと、高跳びのバーが設置されているのが気になったのだ。 バーに向かって立っている人に、見覚えがある。たしか同級生で、高跳びで全国優勝していたような…なんて名前だっけ? 思い出そうとうんうん唸っていたら、その人はバーに向かって走り出した。 「かーわなー」 「うん…あの人、なんて名前だっけ?」 「ん?誰?」 椿原が運動場の方を向いたとき、その人はバーを飛び越えた。 そしてその姿に、俺は一瞬で心奪われてしまった。 高く滑らかに跳ぶ様は、まるで美しい魔物のようで、あの魔物に近づきたい、触れてみたいという気持ちがぶわっとこみ上げてくる。 「ああ、あれは佐瀬だよ。特待クラスの」 「佐瀬…」 そうだ、佐瀬だ。αなのにどこか抜けていて、勉強はできないしカリスマ性もない。運動能力だけがずば抜けていて、影で脳筋アルファと言われてるらしい。 それなのに、高跳びをする姿はまるで別人みたいに美しいなんて。 「ツバキ!」 「どうした?そんな大きい声出して」 椿原は困惑気味だけど、俺は気持ちを抑えられず、叫んでいた。 「俺、佐瀬の性奴隷になりたい!」 「えっ、性奴隷?お前何言ってるの?」 「俺は魔物に征服されたいんだー!」 「川名の気が触れちまった」 かくして俺の、佐瀬の性奴隷を目指す日々が幕を開けた。
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