いきのこる。

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 ***  王様のやり方はいつも大胆で、強引だ。私はそう思いつつも、放送で疲れたであろう王に紅茶を入れて差し上げていた。  厳しく独善的であることで有名である王だが、長年使えている私には少々――否、相当甘いところがあると知っている。王位を幼くして引き継いで以来、他に友人と呼べる者がいなかったというのも大きいのだろうが。 「のう、イアンよ」  鍛え上げられたその体躯は、四十を過ぎた今でも衰えるということを知らない。どっしりと椅子に座って構えながら、王はゆったりと紅茶に手を伸ばした。 「お前は、此度の“企画”をどう思う?予算を大幅に投入して、このような大掛かりな仕掛けを作り……大勢の人間を“徴収”して。そんな私を愚かと笑うか?非道と蔑むか?」 「……いえ」  きっと、自分が非難したところで王は怒らないのだろう。それでも私は、素直な気持ちから告げたのである。 「王様は、何も間違っておりません。これは、必要な政策でございました」  ズラリと並ぶモニターには、全てのポッドの様子が中継されている。今回はまだ第一回大会なので、選ばれた人間は僅か千人ばかりだ。この大会の後、区画ごとにさらに千人を選び、同じようにポッドに落として脱出ゲームをさせるということを繰り返す。可能ならばポッドの数を増やし、いずれはもう少し多い人数を一気に選別することも検討していくつもりである。  今回選ばれたのは、A地区に住む住人達。  その中で――一家庭から一人ずつが選抜されている。ポッドに落とされた人間達は記憶を消されているから覚えていないが、自分達はA地区を訪れて彼らにある“投票”をさせたのである。  投票対象は、同じ家族。  この国は五人以上の大家族が極めて多い――その中で、身内が“最も不要と考える家族”に対して票を投じるように伝えたのである。その結果、最も家族内で得票数が多かった者が今回ポッド行きになったというわけだ。家族からも“こいつが一番要らない”“邪魔だ”と思われた人間である。寝たきりのお年寄りや、アルコール中毒の旦那などが多かったが、中には若い男女や子供も含まれていた。要らないと思った理由は、必ずしもその人格的なものだけではない。貧しい家庭にとっては、多く食べ物を消費する若者や費用のかかる子供こそ不要と考えた者も一定以上いたというわけである。  二十億人をゆうに超えてしまい、完全にキャパシティーオーバーであるこの国の人口を、大幅に減らす。  そして、減らされるのは家族さえも“要らない”と判断するような、人より劣った者や愚かな者が相応しい。  彼らは皆気づいていないのだ。自分達が、家族から見限られてそこにいるということに――生き延びたところで多くの場合は歓迎されないということに。 「あ、ポッド298の彼女、やっとスイッチを見つけたようですね」  ふと、見上げた先。ポッドの最初の出口のスイッチを探すのに苦労していた中年女性が、ようやくその突起を探し当てたところであった。しかし、そのスイッチには罠がある。力加減を間違えて押すと、トラップが作動するのだ。  案の定、女性は飛んできた刃に左手の指を思い切り切り飛ばされ、絶叫していた。全く、最初のトラップに引っかかっているようでは、先は思いやられるというのに。 「あの女は?」 「彼女ですか?キンラン=ミン氏ですね。主婦ですが、ご近所でトラブルを起こすことで有名であったそうです。夫へのドメスティックバイオレンスも疑われておりました。子供も三人おりますが……子供達の教育よりも自分のファッションにお金をかけることに執着していたようで。……まあ、最多得票数になるのは必然だったでしょうね」 「なるほど」  女は血だらけになってもがきながらも、開いた出口に鬼の形相で這っていこうとしている。さてさて、彼女はこの戦いに勝利することができるのか?栄光を掴むことができるのか?バラエティー番組仕立てにするのであれば、そんなテロップが掲げられているところだろう。 「どうせなら、誰が勝利するか賭けでもしてみますか?」  私の提案に、王は声を上げて笑った。 「私も鬼畜だが、お前もとんだ悪魔だな!」  夜はこれからだ。  まだまだ、朝が来るまでは遠いのだろう。参加者達にとっても、この国にとっても。
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