いきのこる。

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『今から説明してやろうというのに、なんと無礼な者がいたものだ。そういう者は、この試練に挑戦する資格もない。挑戦したくないという者は他にもおるか?いるようならば、速やかにこの場で処分してやろうぞ。我らの方も手間が省けるというものよ』  王様の冷徹な声が響く。反射的に、私はブンブンと首を振っていた。まだ人生、六十年も生きていないのだ。こんなところで殺されるなど冗談ではなかった。何故自分が、という怒りや理不尽はあるにしても――今は、従うより他ないだろう。 『脱出できなかった者は、この国に相応しい“優れたる”者ではない。当然、生きていく価値はないと判断し、全員その場で処分されるものとする。生きる意思が強く、そのために他者を超えていける者だけがこの聖なる王国で生きる資格を得るのだ!』  そんな無茶苦茶な、と私は思った。何故、命の価値を王様一人の裁量で決められなければいけないのだろう。そんなの狂っているとしか思えない。そもそも、私は六十手前の女だ。こんなもの、若者が有利であるに決まっている。何故最初から、このような不利な勝負をふっかけられなければいけないのか。  疑問に思っている者は、他にもいるはずだった。しかし、質問する者は一人もいない。先ほどの女性の無残な有様を見てしまったがゆえだろう。余計なことを口にすれば、自分も同じように殺されてしまうことが目に見えている。説明があるまで、許しがあるまで、質問する権利は誰にもないのだ。 『当然、此処にいるのは年齢も性別もバラバラな者達だ。同じ性別年齢であっても、体力などには個人差もある。ゆえに、頭を使って仕掛けを解くタイプのものを用意した。そこからゴールまでは体力もいるが、何よりも仕掛けを解いて罠を回避できる頭が必要となってくる。年輩の者や子供であっても、勝利できる可能性は十分あるというわけだ』  そんな自分達の疑問を見越してか、王様は笑いを含んだ声で告げるのである。 『さあ、これで説明は十分であろう?早速ゲームを始めようではないか。この様子は、全国に実況中継されている。皆の娯楽としても楽しんで貰えるというわけだ。お前達も精々、最後の遊びを存分に楽しみ、勝利を目指してくれたまえ。以上!』  そして、無情にも放送はぶつりと途切れた。自分達に、質問する余地を与えることもなく。 ――ふ、ふざけないで……ふざけんじゃないわよ!なんで私が!私なのよ、ねえ!!  全国に中継されている、ということは。選ばれていない国民も存在しているということ。王様は、全ての国民に試練を与えようとはしていないのである。あくまでなんらかの基準で一部選んだ者だけに試練を与え、その必死で生き残ろうとする様子を、娯楽として皆に与えて楽しませようというのだ。  冗談ではなかった。自分よりもっと、死ぬべき人間などいくらでもいるはずだ。何故自分のように、長年この国に従って真面目に生きてきただけの主婦が、このような恐ろしいものに選ばれなければいけないのか。 ――こんなところで、死んでたまるもんですか……!生き残ってやるわ、絶対!  私の、絶対に負けられない戦いが――始まった。
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