23人が本棚に入れています
本棚に追加
遠浅の海です。
ここは小さな時から慣れ親しんでいる僕たちの海ですから、いつもと逆で僕から大学さんにいくつか教えてあげようと密かに策略していました。
まず一つ目。
「おじさん、この海は有明海って言うんだよ。 知ってた?」
「ああ、それくらいは知ってるさ」
なんだ、大学さんは有明海のこと知っていたのか。でもこの次は絶対わからないぞ。
二つ目。
「じゃあ、有明って言葉の意味知ってる?」
「ん?……それは知らないなぁ」
「降参?」
「うーん。 悔しいけど降参だ」
やったー。
初めて僕が大学さんに教える側に立ちました。
「それはねぇ。月の明かりが残っている内に、日が昇るってことを言うんだよ。まだ明かりが有るってことなんだ」
「へー、そうかい。物知りだなー。広人君は」
僕はこの時初めて大学さんから名前を読んでもらって、褒められたことよりもそのことの方がとても嬉しくて、今思えば、僕は本当に大学さんのことが好きだったんだろうなぁ……と思います。
それと子供だった僕は気づきませんでしたけど、大学さんはあの時わざと有明の意味を知らないと言って、僕に花を持たせてくれたのだと思います。
最初のコメントを投稿しよう!