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 大学さんの朗読は一時間半に及びました。  小学三年生の僕らがどこまで世界の文豪が書いた物語を理解出来たかは言わずもがなですが、その時間はただただ大学さんの漕ぐ船に、ゆらゆらと揺られているような心地良さでした。  読み終えた大学さんは僕たちの顔を見渡しながら、かけていた魔法を解くように「おしまい」と言って指を鳴らす代わりにパタンと音を立てて本を閉じたのです。  僕は老人と一緒にカジキマグロと闘っていた手に汗握る白昼夢から「はッ」と目覚めたような感覚でした。  数秒のタイムラグの後に僕らはやっと思い出したようにパチパチパチと拍手をしました。大学さんの魔法が解けて、お宮さんのお堂で車座になっている現実に戻ったのです。  ふんわりとですが僕がその時思った事は、何日も死闘を繰り広げた巨大なカジキマグロのことを老人は、戦友、もしくは友人のように思ったんじゃないか……と。  誰かと真剣に対峙するような時には、ましてや命をかけて闘うような時には、例え相手が敵であっても心はある意味通じ合っているものでしょうから。  
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