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 その日の夕食はカレーライスでした。   今でも勿論カレーライスは大好物ですが、その頃の僕にはカレーライスはかなりのご馳走でした。入っている具はじゃが芋人参玉ねぎに、肉系は牛肉ではなくて大概いつも鯨の肉でしたが──。鯨が安価で売られていたなんて、今ではとても信じられないことです。  父が帰宅して卓袱台に家族が揃い、夕食が始まりました。僕は鯨の欠片をスプーンで掬って、ヘミングウェイの物語のカジキマグロをふっと思い出しました。僕は内心にやりとして、その鯨の一欠片をカジキマグロのつもりでパクリと頬張り、大切な獲物を失った老人の気持ちも込めて噛み締めたのです。 『鮫なんかにやるものか』  そういう気持ちで味わった鯨の肉は、いつもと違った特別な味がしました。  僕はカレーライスを食べつつ、両親にお宮さんにいる大学さんの話をしました。すると両親は何故か一瞬曇ったような表情をしたのです。 僕が大学さんに近づくことを少し不安に思ったのでしょうか ──すぐにいつもの表情に戻りましたけど。  
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