16/20
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 大学さんとの思い出は朗読と食事会だけではありません。僕は大学さんを家に招いてからというもの、一人の時でも"大学さん詣で"を続けるようになって、僕からしたら随分と心を通わせることが出来たのです。  そしてもう秋も深まりかなり日中も寒くなっていた時分でしたが、僕は友だちと一緒に大学さんを自転車でニ十分くらいの干潟の海に誘いました。それは無理を言って父から大学さんが乗る自転車を借りることが出来たからです。    干潟には何百メートルも長くコンクリートの堤防が続いていて、それに沿って細い道路が伸びています。干潟から水平線まで一望出来る、海に用事がある車両しか通らないような静かな道路です。まだまだ舗装されていない道が多かった時代、僕はその滑りのいい道を自転車で思いっ切りスピードを上げて走ることが好きでした。    僕らは堤防に着くと早速自転車レースをしようと、横一列に並び海を左に見て「三、ニ、一」で、一斉にペダルを漕いでスタートしました。すると大人気ないことに、黒いマントを大きく(なび)かせた大学さんが本気の凄いスピードで、あっという間もなく僕らを大きく離して爆走して行ったのです。    まるで月光仮面の悪者のように──。    僕らはその悪者の大学さんを捕まえるぞと、立ち漕ぎの全力疾走で十メートルくらいの大学さんとの差を必死で追いかけました。 「待て、待てー、悪者ー!!」 「待てー!!」  しばらく走ると大学さんは自分の大人気なさに気付いたのかスピードを徐々に落として止まり、僕らはそのまま自転車を降りてコンクリートの壁に立て掛け、堤防の階段から潮の引いた干潟に下ってみることにしました。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!