19/20
前へ
/46ページ
次へ
 みんなで干潟の海に行ってから何日か経った日の夕方のことです。僕は日課になっていた"大学さん詣で"を、その日もまた一人で行いました。大学さんは柔らかい赤みを帯びた夕日を浴びて、いつもと変わらずお堂の上がり口に座っていました。その日はハイカラな黒い万年筆を片手に、膝に置いた大学ノートに書き物をしていて、何か日記か旅の記録でも付けていたのでしょうか。 「おじさん、こんにちは」 「やあ、広人君」  僕は目尻に何本か皺を作ってにっこり笑った大学さんの顔を見て、そのまま何気なく目線を大学さんの肩越しにお堂の中に移しました。ん?──と、それは少しの違和感で、お堂の中は何時にも増して殺風景でした。  そこで、あ……と、僕はいつも外に出ていたいくつかの持ち物がきれいに片付けられているのに気づいたのです。  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加