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 家の前の道を大勢の人がバタバタと行き来する足音と、裏山ー! 裏山ー!という叫び声が聞こえます。ああ裏山で何かとんでもないことが起こったのだと思い、また身を縮めると遠くからパトカーのサイレンが聞こえて、それは徐々に近づき、やがてけたたましいその音は村を支配しました。  僕は恐ろしいサイレンの音で、もう二度と元の世界には戻れなくなるのだと思いました。世界が終わるくらいの気持ちです。その時はまだ気持ちを言葉に表すことが出来ませんでしたけれど、今思えばそれは「絶望」という言葉でした。    しかし僕は乗り越えました。  僕は何かを悟ったように恐怖を乗り越え、布団から這い出て三和土に降り、玄関をそっと開けたのです。 すると外は、祭りの日でしか見たことがないくらいに人が集まって、裏山の方を指差したりしていました。そこでやっと僕は我に返って、何かとても大事なことを忘れていたのに気付いたのです。──それは大学さんのことでした。  僕ははっとして畦道からお宮さんに目をやりました。すると大学さんがお宮さんの前で、直立不動で立っているのが見えたのです。僕は急に正体不明のわけの分からない嫌な予感と不安に襲われました。  すると突然後ろから、 「中に入りなさいっ!」    母の金切り声に僕は飛び上がりました。振り返ると恐ろしい形相の母がいたのです。    
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