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平静を装って立ち上がる。愛理とくうたろうの刺すような視線が痛い。
「まああれだ、うっかりだよ。ワザとだよ」
「どっちですか?」
愛理の冷静な突っ込み。誤魔化せなかった。
「アンタいつもこんなことやってんのかい?」
大家さんが呆れてため息をつく。心外だ。
ハプニングは三回に一回です。と言いかけてやめた。
これ何の弁解にもなっていないじゃないか。
「そうですね、いつものことです」
人間正直が一番だ。
「ハァ~」
大家さんのため息。正直者はバカを見た。
「ふぅ……」
愛理もため息。
「ニャッフゥ」
おい、くうたろう、お前もかっ。
「まあまあ新妻さん、ははは、まあまあ」
上野さんがフォローしてくれようとして諦めたらしい。
やいのやいの盛り上がる外野を背に、一休みとつぶやき椅子に座る。
ここは所長の机。愛理がそう名付けてくれたっけ。
当初はぼく1人だったから、所長も秘書もなくて、ただの探偵もどきだったんだ。
ん? 探偵もどきってことは、探偵じゃなかったのかって?
そうさ。ぼくの職業はもともと探偵じゃなかった。
今考えたんだろうって? そんなことないよ、語る機会がなかっただけさ。
目を閉じると思い出す。三年前のあの日──
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