新妻探偵事務所・エピソード零

12/12
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 平静を装って立ち上がる。愛理とくうたろうの刺すような視線が痛い。 「まああれだ、うっかりだよ。ワザとだよ」 「どっちですか?」    愛理の冷静な突っ込み。誤魔化せなかった。 「アンタいつもこんなことやってんのかい?」    大家さんが呆れてため息をつく。心外だ。  ハプニングは三回に一回です。と言いかけてやめた。  これ何の弁解にもなっていないじゃないか。 「そうですね、いつものことです」  人間正直が一番だ。 「ハァ~」    大家さんのため息。正直者はバカを見た。 「ふぅ……」  愛理もため息。 「ニャッフゥ」  おい、くうたろう、お前もかっ。 「まあまあ新妻さん、ははは、まあまあ」  上野さんがフォローしてくれようとして諦めたらしい。  やいのやいの盛り上がる外野を背に、一休みとつぶやき椅子に座る。  ここは所長の机。愛理がそう名付けてくれたっけ。     当初はぼく1人だったから、所長も秘書もなくて、ただの探偵もどきだったんだ。  ん? 探偵ってことは、探偵じゃなかったのかって?  そうさ。ぼくの職業はもともと探偵じゃなかった。  今考えたんだろうって? そんなことないよ、語る機会がなかっただけさ。  目を閉じると思い出す。三年前のあの日──
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!