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『――まあそう言うな。こういった世知辛い世であれ、その時々で――』  倫之助(りんのすけ)が同行者に言い放った言葉である。とはいえ、倫之助とは小説上の人物であり、この台詞は作者である明楽(あきら)の頭の中で発せられた。  明楽は新人賞をとり作家デビューする事を夢見ていた。  過去、何度も新人賞やプロアマ問わないコンテストに応募し続け、見事に落選三昧。諦めず書き続けた明楽はある時、無料投稿サイトの存在を目にした。  "過去落選した作品にもう一度日の目を――"  "書いたけど眠っている作品が――"  "無料投稿から作家デビュー"  あらゆる謳い文句に見事魅かれた明楽は、即座にアカウント登録してその日の内に過去落選した作品をコピーした。  投稿の方法に手間取り、あらすじや一言コメントなど、今までした事が無いものが多く、更には過去の作品に誤字脱字や文法的におかしい部分を多々発見し、どうりで落選する筈だと納得した。  数日かけてコピーと添削、修正を済ませ、初作品を公開した。  その時、明楽は気づいていなかった。無料投稿サイトはただ小説をかき上げ、一括で投稿すれば何か進展するものではないと。  無料投稿サイトはただ書いて投稿するだけだと中々閲覧してもらえず、小出しに公開するほうがいいとされる。そして、短編も書いて投稿するとそちらの方が閲覧されやすく、自分がどんな作品を書くかを理解してもらいやすい。  他にも色々あるが、ただ記入して公開するだけではいけないと学んだ。  約半年、明楽は落選した投稿作品、計三作を記入し、小出しに公開し、短編コンテスト用作品も三作書き上げた。  色んなコミュニティ活動の甲斐もあってPV(Page Viewの略。ページ閲覧数の事)はそこそこ稼いだ。しかし目当てのコンテストは見事全滅。それでもコンテストは短編長編共に開催され、その開催数は頻繁であり、無料投稿する前と比べて応募の回数が増えたことは嬉しい限りであった。  今、明楽が応募したいコンテストはミステリー小説。  公開した長編は全て別の賞に応募している上にミステリーではない。そして応募締切は十日後なのに、小説は書き上がっていない。しかし、物語の進行具合から見ると、後は推理ショーと犯人の動機告白とエピローグのみ。  約二万字あれば出来ると思われた。  迫る時間に焦り、頭の中に登場人物達が台詞を淡々と語ってくれる現象にまで陥った明楽は、自分でも驚きのタイピング速度で執筆を進めた。
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