本当に好きな人

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視界がぼんやりと歪んでいる。 目を抑えると、自分が泣いていることに気づいた。 薄いレースカーテンがかけられた窓からは、これでもかというほど強い日差しが差し込み、私はまた目を閉じる。 思い返す、今見た夢を。 仲の良かった男友達と女友達と私と、3人で桜を見に行く夢。 なんでもない、この時期には行列ができる焼き鳥屋の焼き鳥を片手に、ビールを飲んで、ケーキ作りが得意な女友達の作ったマフィンを食べて。 私たちは、真っ青な中にピンク色を添えた空の下、大した話でもないことで笑った。 楽しい時間はすぐすぎるもので、空の色が赤く変わり、紫になり、肌を冷やす風が吹き始め、私たちは片づけを始める。 「じゃあ、また」 そういって私たちはそれぞれの道を進む。 次に会う約束をして。 約束の日はすぐに訪れる。 男友達と女友達と、私。そして、男友達の彼女という人。 いつも3人だったのに、今日から4人。 この日はタイ料理店。 手の込んだ照明が空間を灯し、窓の外には飛行機が並んでいる。 このあと男友達と、男友達の彼女は、あの飛行機に乗って遠くに行ってしまう。私の知らない街へ、違う暮らしを初めてしまう。 時々クロスした私たちの人生が、まったくクロスしない位置へと彼は進んでしまう。 サヨナラの時。 「じゃあ、また」 いつもと変わらず私たち3人は違う道を進む。 1人だけ、2人になって。 嫌だ。 会いたいときに会えないなんて嫌だ。 私を置いていかないで。 私は泣いていたのか。 久しぶりに彼のことを想い返す。 15年来の親友。 今はだれかさんの旦那さん。 遠い街で暮らしている。 そして思い返す。本当の想い出を。 3人で見た桜、3人で食べたタイ料理、3人で並んだ有名店の焼き鳥、3人で観た映画、3人で出席した友達の結婚式、 2人で行ったテーマパーク、2人で登った山、2人で食べたイタリアン。 2人で話した恋愛話。 彼に恋愛感情はなかった。 そう思っていた。 でも、いつも待っていた。 会いたいと思った。 あぁ、これはもしかして――。 15年経ってやっと気づいた自分の気持ち。 彼のことが好きなんだな。 ガチャリという音と共に、部屋の扉が開く。 「もうお昼だよ、 パスタ茹でてるから一緒に食べよう」 いつもののんびりした口調でそう言った夫が、寝ている私の横に座る。 「そうね。起きるわ」 男友達は、寝ている私にパスタを茹でてくれる男だっただろうか。 いや、それはない。 私の選択は間違っていない、そして彼の選択も間違っていない。きっと男友達のあの人は、朝起きて、昼まで寝ている彼にパスタを茹でてくれる女性のはずだ。 窓の外からは、やはり光がたっぷりと注がれている。 私は、今日も自分の人生を生きる。 彼が、私の知らない場所で彼の人生を生きているように。 私は恋心をそっと奥に閉まって、布団から起き上がった。 夫に「ありがとう」と声にして。
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