10人が本棚に入れています
本棚に追加
視界がぼんやりと歪んでいる。
目を抑えると、自分が泣いていることに気づいた。
薄いレースカーテンがかけられた窓からは、これでもかというほど強い日差しが差し込み、私はまた目を閉じる。
思い返す、今見た夢を。
仲の良かった男友達と女友達と私と、3人で桜を見に行く夢。
なんでもない、この時期には行列ができる焼き鳥屋の焼き鳥を片手に、ビールを飲んで、ケーキ作りが得意な女友達の作ったマフィンを食べて。
私たちは、真っ青な中にピンク色を添えた空の下、大した話でもないことで笑った。
楽しい時間はすぐすぎるもので、空の色が赤く変わり、紫になり、肌を冷やす風が吹き始め、私たちは片づけを始める。
「じゃあ、また」
そういって私たちはそれぞれの道を進む。
次に会う約束をして。
約束の日はすぐに訪れる。
男友達と女友達と、私。そして、男友達の彼女という人。
いつも3人だったのに、今日から4人。
この日はタイ料理店。
手の込んだ照明が空間を灯し、窓の外には飛行機が並んでいる。
このあと男友達と、男友達の彼女は、あの飛行機に乗って遠くに行ってしまう。私の知らない街へ、違う暮らしを初めてしまう。
時々クロスした私たちの人生が、まったくクロスしない位置へと彼は進んでしまう。
サヨナラの時。
「じゃあ、また」
いつもと変わらず私たち3人は違う道を進む。
1人だけ、2人になって。
嫌だ。
会いたいときに会えないなんて嫌だ。
私を置いていかないで。
私は泣いていたのか。
久しぶりに彼のことを想い返す。
15年来の親友。
今はだれかさんの旦那さん。
遠い街で暮らしている。
そして思い返す。本当の想い出を。
3人で見た桜、3人で食べたタイ料理、3人で並んだ有名店の焼き鳥、3人で観た映画、3人で出席した友達の結婚式、
2人で行ったテーマパーク、2人で登った山、2人で食べたイタリアン。
2人で話した恋愛話。
彼に恋愛感情はなかった。
そう思っていた。
でも、いつも待っていた。
会いたいと思った。
あぁ、これはもしかして――。
15年経ってやっと気づいた自分の気持ち。
彼のことが好きなんだな。
ガチャリという音と共に、部屋の扉が開く。
「もうお昼だよ、
パスタ茹でてるから一緒に食べよう」
いつもののんびりした口調でそう言った夫が、寝ている私の横に座る。
「そうね。起きるわ」
男友達は、寝ている私にパスタを茹でてくれる男だっただろうか。
いや、それはない。
私の選択は間違っていない、そして彼の選択も間違っていない。きっと男友達のあの人は、朝起きて、昼まで寝ている彼にパスタを茹でてくれる女性のはずだ。
窓の外からは、やはり光がたっぷりと注がれている。
私は、今日も自分の人生を生きる。
彼が、私の知らない場所で彼の人生を生きているように。
私は恋心をそっと奥に閉まって、布団から起き上がった。
夫に「ありがとう」と声にして。
最初のコメントを投稿しよう!