17歳のわたしは11歳

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 衝撃に打ちのめされること、およそふた月。  和馬のあどけない笑顔を見るのも辛い日が続く。  しかし次第に私はこれからの事を考えるようにしていた。うじうじしていても、しくしく泣いていても仕方ない。それに拒否反応に負けている場合ではないのだ。  そうだ、二度目の人生。私が出来る事を成さなければ同じ道を歩む事になるのであろう。  和馬に殺されない為に私に出来る事は何だろうか。よくよく考えねばなるまい。  しかし十一歳の現状で出来る事は、和馬と仲良くする事と、和馬を好きにならない事。  和馬も仲良しの友をよもや殺そうとは思うまい。そうだ、まずは友達として仲良くなればいいのではないだろうか。  小学生の私は和馬とよく遊ぶように努めた。疎まれないために少しでも仲良くしておきたかったから。  互いの家を行き来してお互いの母親にも良くして貰った。  それから私は和馬以外の女の子や男の子とも隔てなく仲良くしようと思い、放課後、どこどこで遊ぼうと話している和馬がいる集団の輪に声を掛ける。 「ねえ、わたしも一緒に遊んでいい?」 「え?」  みんなが一様に驚いて、その開いた目を私へ向ける。 「藤花ちゃんはお嬢様だから、私たちとは遊ばないんじゃなかったの?」 「え?」  と今度は私が驚く番。  いや、待て。……そうだ、私は幼い頃より自尊心だけは一人前にあって、自らみんなと一緒に遊ぼうなどとはしなかった。  だけれど、そんな自分を変えなければならない。 「いいえ、本当はわたしもみんなと遊びたかったの。一緒に遊んでもいい?」 「ほんと? もちろん、いいよ!」  そう言って私の手を取るのは夏子(なつこ)ちゃん。  夏子ちゃんの他に女の子が三人と、男の子が和馬を入れて四人いる。みんな年相応に純粋で優しく、私はその輪にすぐ溶け込むことが出来た。  そうする中で私は彼らを、別の目線で見ている事も時折あった。  それは和馬との婚約が解消される事が分かっているがために、他の男の子を未来の伴侶として相応しいかどうかという視線で見ていた。  けれど、どうしたって和馬より勝る男の子はいなかった。  いつでも私の基準は和馬だ。和馬と比べて、和馬より劣る事を知る。  でも私の未来に和馬はいない。私の中から和馬を消さなければ私に安穏な未来はないのだ。  私と和馬は十二歳まで同じ尋常小学校に通い、その後は私が高等女学校へ、そして和馬は陸軍幼年学校へ上がる事になる。  陸軍幼年学校は将来の将校候補生が行く全寮制の学校だ。  齢満十三から十五未満の間の二年間しか受験する事が出来ない。  兄の龍彦もこの陸軍幼年学校に三年間学び、そして陸軍士官学校に入校していた。  士官学校は授業料が無償なのに対して幼年学校は有償であった。しかし軍人の子息である等の条件を満たしていれば特待として半額免除になる。  だが和馬の父は小学校の教諭であった。  始めは高い授業料が払えないという理由で和馬は中学校に上がる予定であったのだが、私の父が『十三歳で合格すれば授業料は私が出しても良い』と言い出し、そして和馬は見事に十三の歳に陸軍幼年学校生徒採用試験に合格した。  龍彦兄さんでも十四歳で合格したと言うのに、和馬は本当に賢いのだということがよく分かる。
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