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陸に上がった大物は、
「上半身をタコに食われた大人の男」と呼ぶべきか。
……はっきり言ってかなりグロかった。
ギョロギョロまぶたのない丸目玉をカメラのレンズみたく絞って、
おれを獲物に選んだようだ。
「ふしゅるるる……オマエ、コロス……!」
「へーえ、おまえ、しゃべれんの? ゴメンナサイ』って言えよな早く」
「オマエ……バラバラ、サメノエサ!」
七本腕を逆立てて、威嚇のポーズをとったが最後。
残念ながらもう二度と、やつの見せ場はこなかった。
圧倒的に、絶対的に。
おれのパンチは速かった。
「ズシン!」と響く衝撃で、
倉庫の屋根から見守っていた数羽のカモメが飛び去った。
「……おいおい、大したことねえなあ? とっととバラバラにしてみせろよ」
——じゃねーと、キツいのお見舞いするぜ?
返事のセリフはこなかった。
ボディに受けた一撃のせいで、口から白い泡を吹きだして、
タコミュータントは固まっていた。
(あと一発で勝負はつくが……楽勝すぎて物足りねえや)
飛鳥にいいところも見せたいし、ここはド派手に決めてやろう。
おれは自宅で待機している千夜を無線で呼びつけた。
「千夜、『必殺技』を使うぜ。ポイントこっちに送ってくれや」
「あんまり調子に乗っちゃダメ。今月まだ二十日以上あるわ」
メットの中のイヤホン越しに、相棒の声はイラついていた。
が、そんなのお構いなしだ。
(わかってねえなあ、こういうのはよ……なんでも『初日』が肝心なんだ!)
「いいからホラ、よこせよワザ! 景気づけにパーッとやるんだよッ!」
「……1回50ポイントよ」
▽ 985→935 ▽
通信が切れた途端に「ブシューッ!」。
おれのスーツの排気孔から、白い蒸気が噴出された。
「……よう、またせたな、タコ野郎」
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