1.ヒーローなんてしたくねぇ

3/14
前へ
/155ページ
次へ
——若死病(じゃくしびょう)。 二十一世紀の中頃に、突如(とつじょ)世界規模で流行(はや)った原因不明の病によって。 全人類の最長寿命は「50歳」で(アタマ)打ちになった。 当時のことはよく知らないが、 「人生100年計画」だなんて盛り上げていたご時世に、 老人たちがバタバタ倒れて気づけば世界からいなくなった。 新たな時代の常識は——人間、長生きして50年。 どれだけ元気に過ごしていても、まるでプログラムされたみたいに誰もが「死」から逃れられない。 結果、人口は激減し、社会は手厚い保障体制。 アンドロイドが労働力に、人生の密度は2倍になった。 10歳でもう成人、結婚。 12、13で子どもをつくり、 15でマイホームを買って、 二十歳(ハタチ)一回浮気(ウワキ)する。 (ちょっとイメージがわかないやつは、自分の歳を2倍してみれば、昔の人間でいう何歳に当たるのかすぐ計算できる) 人生が急ぎ足で過ぎるのはなんだかさみしい気もするが、 どっこい、わるいことだけじゃない。 世間に対して「(あきら)め」がつくのも、 おかげでずいぶんと早くなった。 ……だいたい15歳にもなれば。 だれしも自然に「それ」が理解(ワカ)る。 自分がいまの社会において、 どれだけ必要とされているか、 どれだけ役に立っているのか。 ……クソの役にも立ってないのか。 (はいはい、どーせ、おれはダメだよ。言われなくてもわかってるんだ……) だけどセンチに落ち込むおれに、千夜とベルはまるで無慈悲だった。 「……で、奈良部(ナラベ)くん、支給金は?」 「羊一(ヨーイチ)さま! 見せてください!」 「まあまあ、まてよ、あわてるな。あわてるような時間じゃないぜ?」 どーにかこの場をやり過ごそうと、 おれが冷や汗かいたその時。 ——ピンポーン! インターホンがとつぜん鳴って、 その場の注意は必然的に、玄関口の方に(のが)れた。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加