52人が本棚に入れています
本棚に追加
——若死病。
二十一世紀の中頃に、突如世界規模で流行った原因不明の病によって。
全人類の最長寿命は「50歳」で頭打ちになった。
当時のことはよく知らないが、
「人生100年計画」だなんて盛り上げていたご時世に、
老人たちがバタバタ倒れて気づけば世界からいなくなった。
新たな時代の常識は——人間、長生きして50年。
どれだけ元気に過ごしていても、まるでプログラムされたみたいに誰もが「死」から逃れられない。
結果、人口は激減し、社会は手厚い保障体制。
アンドロイドが労働力に、人生の密度は2倍になった。
10歳でもう成人、結婚。
12、13で子どもをつくり、
15でマイホームを買って、
二十歳で一回浮気する。
(ちょっとイメージがわかないやつは、自分の歳を2倍してみれば、昔の人間でいう何歳に当たるのかすぐ計算できる)
人生が急ぎ足で過ぎるのはなんだかさみしい気もするが、
どっこい、わるいことだけじゃない。
世間に対して「諦め」がつくのも、
おかげでずいぶんと早くなった。
……だいたい15歳にもなれば。
だれしも自然に「それ」が理解る。
自分がいまの社会において、
どれだけ必要とされているか、
どれだけ役に立っているのか。
……クソの役にも立ってないのか。
(はいはい、どーせ、おれはダメだよ。言われなくてもわかってるんだ……)
だけどセンチに落ち込むおれに、千夜とベルはまるで無慈悲だった。
「……で、奈良部くん、支給金は?」
「羊一さま! 見せてください!」
「まあまあ、まてよ、あわてるな。あわてるような時間じゃないぜ?」
どーにかこの場をやり過ごそうと、
おれが冷や汗かいたその時。
——ピンポーン!
インターホンがとつぜん鳴って、
その場の注意は必然的に、玄関口の方に逸れた。
最初のコメントを投稿しよう!