1.ヒーローなんてしたくねぇ

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「あっ、お客さまですわ!」 ぱたぱた駆けだして行ったベルが、じきにリビングに連れてきたのは、 眉間にふかい(シワ)を刻んだ、おれと同い年の男だった。 背丈は高く、やや細身。 春物の黒のロングコートが、ダブルのスーツによく合っている。 「まったくここは、いつきても……」 ——ひどいな、まるでゴミ()めだ。 口はわるいが悪意はない。 こいつはそういう性格なのだ。 おれは冗談に冗談で返した。 「なんだよ(ミツル)。ヒマしてんのか?」 「ああ、おまえほどじゃないけどな」 大八木充(オーヤギミツル)はおれの親友、いわゆる「幼なじみ」ってやつだ。 ちいさい頃からエリートコース、警視「省」に勤めだしてからも、とんとん拍子で出世を続け、いまや身分は立派な警視。(おまけに美人の嫁がいやがる) おれなんかと比べられた日には、 「月とすっぽん」、「クソと黄金」。 ——ふたり隣に並べてみたら、あなたの顔が「ギャグ」に見えるわ。 桜千夜(サクラチヨ)とかいう「ちびでぶ」は、かつておれにそんなことを言った。 「羊一さまはヒマじゃないですわ! 毎日パチンコに行ってますわ!」 ベルはけなげに抗議して、おれの立場をよりわるくした。 「へへへ、まぁ、『息抜き』だよ……」 「時間がない。手短に言うぞ」 未来の警視総監さまは、そーゆー茶番が嫌いなようで。 未来永劫無職のおれに、命令口調できびしく言った。 ——シープマン、つぎの任務だ。
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