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「あっ、お客さまですわ!」
ぱたぱた駆けだして行ったベルが、じきにリビングに連れてきたのは、
眉間にふかい皺を刻んだ、おれと同い年の男だった。
背丈は高く、やや細身。
春物の黒のロングコートが、ダブルのスーツによく合っている。
「まったくここは、いつきても……」
——ひどいな、まるでゴミ溜めだ。
口はわるいが悪意はない。
こいつはそういう性格なのだ。
おれは冗談に冗談で返した。
「なんだよ充。ヒマしてんのか?」
「ああ、おまえほどじゃないけどな」
大八木充はおれの親友、いわゆる「幼なじみ」ってやつだ。
ちいさい頃からエリートコース、警視「省」に勤めだしてからも、とんとん拍子で出世を続け、いまや身分は立派な警視。(おまけに美人の嫁がいやがる)
おれなんかと比べられた日には、
「月とすっぽん」、「クソと黄金」。
——ふたり隣に並べてみたら、あなたの顔が「ギャグ」に見えるわ。
桜千夜とかいう「ちびでぶ」は、かつておれにそんなことを言った。
「羊一さまはヒマじゃないですわ! 毎日パチンコに行ってますわ!」
ベルはけなげに抗議して、おれの立場をよりわるくした。
「へへへ、まぁ、『息抜き』だよ……」
「時間がない。手短に言うぞ」
未来の警視総監さまは、そーゆー茶番が嫌いなようで。
未来永劫無職のおれに、命令口調できびしく言った。
——シープマン、つぎの任務だ。
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