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「……やだね。乗り気じゃねーんだよ」
シープマンはこの「おれ」だから、おれは即座に却下した。
「どーせ、いつもの『タダ働き』だ。正義で腹が膨れるか、ん?」
安い挑発かもしれないが、問題はかなり切実だった。
ヒーロー稼業は儲からない。
現にこの前の捕物帖——
さっきニュースで流されていた、「ヤクザ共とのドンパチ」だって、
結局「機密」扱いにされ、ビタ一文ももらえなかった。
つまりはただのボランティア。
ボランティアなんておれはゴメンだ。
「あのなぁ、充、考えてくれ。おれたちゃ金がねーんだよ。おれの家族がひと月暮らしていくのにどれだけ掛かるのか、おまえはわかっちゃいねーんだ」
「だったらパチンコなんていくなよ」
論破は2秒で終わったが、充は渋い表情をつくり、
言いにくそうにこう告げた。
「今度は出るぞ、報酬が。『実験協力費』というやつだ」
「マジかそれ! なら受ける!」
「……だったらさっそく紹介しよう。飛鳥くん、入りたまえ」
それを合図に、
「失礼します!」
凛とひと声ドアがひらいて、若い婦警が現れた。
……名前を呼ばれるまでずっと、律儀に部屋の外にいたらしい。
ひと目で「まじめなやつ」とわかった。
知性を感じるシャープな目つき、きりりと引き締まった口元。
髪は後ろでポニーテールに、スレンダーボディを制服に包み、
きびきびとしたその歩き方は、まるで背骨の代わりに「竹刀」かなにかを埋め込まれてるみたいだ。
「大八木警視! お呼びでしょうか!」
模範みたいな敬礼に、思わずギャラリーたちの間でパチパチまばらな拍手が起こる。
「彼女の名前は『飛鳥マークⅡ』。警視省の特務捜査官だ。いいか、羊一、いや、シープマン。今後の仕事は彼女とふたり、『ペア』を組んで動いてもらうぞ!」
「え……? はあ? どういうこったよ?」
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