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「ビーッ、ビーッ!」とアラームの音が、充の腕時計から聞こえた。
「……出番だぞ、ふたりとも」
時計の表示を目で追って、充の表情がきびしくなる。
「湾岸エリアC地区ふ頭。『ミュータント』……1体だ。狙いは船の積荷らしい。窃盗団を連れている」
「『ミュータント』か。仕方ねえな……」
おれはやれやれといった風に、千夜に向かって目配せをした。
「千夜、いいな? 『変身』だ!」
「はい『変身』。5ポイントね」
千夜が目を閉じそっと祈ると、
おれの体が白く輝き、
「ガシャーン! ガシャーン!」(←効果音)
あっという間に「戦闘スーツ」が全身くまなく装着される。
メカニカルかつ重厚な、
ホワイトボディ、シープマン!!!
変身シーンのお決まりで、「ブシューッ!」っと辺りに白い蒸気が煙幕のように立ちこめる。
「げほげほげほ……羊一さま、お部屋の中ではくるしいですわ……」
「わりぃなベル、仕様なんだ。おい、千夜! 次は『ビークル』だ!」
「はい、『ビークル』、10ポイント。表に駐めておいたわよ」
——「1000」から「995」、いまので「985」。
千夜がカウントするたびに、
おれのスーツの胸部モニターに示された「数」が減っていく。
この数値こそ「C《シー》ポイント」。
毎月初めに1000ポイントずつ回復するこの点数が、
超カッコいいスーパーヒーロー「シープーマン」のパワーの源だ。
(月末はかなりキツくなるから、くれぐれも無駄遣いは厳禁)
「よっしゃあ、準備完了だ! ……で、おたくはどうすんの? サイボーグ・ポリスのお嬢ちゃん♪」
飛鳥は涼しい顔のまま、おれの煽りを軽くいなした。
「わたしか? わたしはもう済んでいる」
つかつかと窓際に歩み寄り、
ガラッと窓を全開にして、
突然バックパックを開き、
「シュババババッ!」っと勢いつけて、
ジェット噴射で飛び去った。
「え……? おい。ちょっとまてよ……」
あっけにとられるおれの隣で、桜千夜が憎いことを言った。
「『ビークル』、はやく乗ってかないと、駐禁とられちゃうんじゃないの?」
——でも、ほんとによかったかしら。
出すのはシープマン「カー」じゃなくて。
……うるせえ、知ってて言うんじゃねえよ。
おれは「原付」しか乗れねぇの!
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