1.ヒーローなんてしたくねぇ

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「ビーッ、ビーッ!」とアラームの音が、(ミツル)の腕時計から聞こえた。 「……出番だぞ、ふたりとも」 時計の表示を目で追って、(ミツル)の表情がきびしくなる。 「湾岸エリアC地区ふ頭。『ミュータント』……1体だ。狙いは船の積荷らしい。窃盗団を連れている」 「『ミュータント』か。仕方ねえな……」 おれはやれやれといった風に、千夜(チヨ)に向かって目配せをした。 「千夜、いいな? 『変身』だ!」 「はい『変身』。5ポイントね」 千夜が目を閉じそっと祈ると、 おれの体が白く輝き、 「ガシャーン! ガシャーン!」(←効果音) あっという間に「戦闘スーツ」が全身くまなく装着される。 メカニカルかつ重厚な、 ホワイトボディ、シープマン!!! 変身シーンのお決まりで、「ブシューッ!」っと辺りに白い蒸気が煙幕のように立ちこめる。 「げほげほげほ……羊一(ヨーイチ)さま、お部屋の中ではくるしいですわ……」 「わりぃなベル、仕様なんだ。おい、千夜! 次は『ビークル』だ!」 「はい、『ビークル』、10ポイント。表に駐めておいたわよ」 ——「1000」から「995」、いまので「985」。 千夜がカウントするたびに、 おれのスーツの胸部モニターに示された「数」が減っていく。 この数値こそ「C《シー》ポイント」。 毎月初めに1000ポイントずつ回復するこの点数が、 超カッコいいスーパーヒーロー「シープーマン」のパワーの源だ。 (月末はかなりキツくなるから、くれぐれも無駄遣いは厳禁) 「よっしゃあ、準備完了だ! ……で、おたくはどうすんの? サイボーグ・ポリスのお嬢ちゃん♪」 飛鳥(アスカ)は涼しい顔のまま、おれの煽りを軽くいなした。 「わたしか? わたしはもう済んでいる」 つかつかと窓際に歩み寄り、 ガラッと窓を全開にして、 突然バックパックを開き、 「シュババババッ!」っと勢いつけて、 ジェット噴射で飛び去った。 「え……? おい。ちょっとまてよ……」 あっけにとられるおれの隣で、桜千夜が憎いことを言った。 「『ビークル』、はやく乗ってかないと、駐禁とられちゃうんじゃないの?」 ——でも、ほんとによかったかしら。 出すのはシープマン「カー」じゃなくて。 ……うるせえ、知ってて言うんじゃねえよ。 おれは「原付」しか乗れねぇの!
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